内分泌

免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害

ヨーロッパ内分泌学会が免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害のガイドラインを出したので、復習としてまとめました。

免疫チェックポイント阻害薬投与中にルーチンで行う血液検査

最低限行う検査(午前8-9時、4-6週毎、ICI投与を受ける全ての患者、理想は各サイクルの投与前):TSH・FT4・コルチゾール・血糖・Na・K・Cl
包括的な検査(午前8-9時、抗CTLA-4抗体使用患者では行うべき):ACTH・LH・FSH・E2(閉経前女性)・テストステロン(男性)・PRL・HbA1c

免疫チェックポイント阻害薬の中止・継続について

内分泌障害は治療でマネジメントされていれば免疫チェックポイント阻害薬を中止する必要はない。副腎クリーゼや甲状腺機能亢進症はそちらの治療が優先されるが、数日から数週で落ち着くため、免疫チェックポイント阻害薬は継続すべきである。

下垂体炎

投与開始から下垂体炎発症までの期間は抗CTLA-4抗体で10.5週抗PD-1/PD-L1抗体で27週
抗CTLA-4抗体による下垂体炎ではACTH欠乏が95%、中枢性甲状腺機能低下症75%、中枢性性腺機能低下症75%と複数のホルモンが障害されることが多い。GH欠乏に関しては評価されないことが多いため不明。悪性腫瘍がある状態でのGH補充が禁忌のため。
抗PD-1抗体による下垂体ではほぼ全例ACTH単独欠損症を起こす。低Na血症を63%に認める。
下垂体MRIによる異常は抗CTLA-4抗体による下垂体炎では81%に認める。PD-1/PD-L1による下垂体炎では18%のみで発症初期に軽度の腫大を認める、その後数週で正常に戻る。経時的に萎縮してempty sellaになることもある。
免疫チェックポイント阻害薬による尿崩症は稀で抗CTLA-4・抗PD-1抗体による下垂体では3%程度にしか認めない。

診断時に注意すること

下垂体機能に影響を及ぼす薬剤の使用に注意する。
高用量のグルココルチコイドはACTHを抑制する。またTSH・FSH・LH・GH・AVP分泌も抑制しうる。オピオイドはACTHとゴナドトロピンの分泌を抑制する。尿崩症は稀だが、グルココルチコイド補充後の発症に注意する(仮面尿崩症)。下垂体MRIは転移性病変などの他の下垂体機能低下症の原因の検索に役立つ。下垂体MRIの正常は下垂体炎の除外には使えない。

治療

生理量のグルココルチコイド(ヒドロコルチゾン15-25mg/日、2-3回に分割)を補充する。
副腎クリーゼの場合は輸液とヒドロコルチゾン100mg点滴後に50mgを6時間毎投与する。
グルココルチコイド大量投与は下垂体機能改善の効果はなく、むしろ予後が悪化する可能性が報告されているので基本的に行わない。
下垂体の著しい腫大によって激しい頭痛や視交叉圧迫による視力障害が生じている場合はグルココルチコイド大量投与を考慮する。
甲状腺機能障害や性腺機能低下症は自然に改善することが多いので適宜フォローする。
シックデイルールを適切に指導する。副腎不全カードを携帯させる。

甲状腺

免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害において甲状腺機能異常が最も多い。
抗PD-1/PD-L1抗体は抗CTLA-4抗体よりもリスクが高い。併用が最もリスク高い。
ほとんどの症例が無症状から軽症(GradeⅠorⅡ)。
甲状腺機能低下症が最も多く、抗PD-1/PD-L1抗体3.9-8.5%、抗CTLA-4抗体2.5-3.8%、併用療法10.2-16.4%。典型的には投与開始後8-12週目に発症する。
甲状腺中毒症(典型的には甲状腺機能低下症に先行する)は抗PD-1/PD-L1抗体0.6-3.7%、抗CTLA-4抗体0.2-5.2%、併用療法8.0-11.1%に発症する。甲状腺中毒症は投与開始後4-6週で発症し、約6週間続く。併用療法ではより早期に発症する。
稀だがバセドウ病や甲状腺眼症を発症した症例も報告されている。
ICI関連の甲状腺機能異常は甲状腺中毒症後の甲状腺機能低下症甲状腺機能低下症単独の2パターンがよく報告されている。顕性の甲状腺機能低下症は基本的に永続性である。
甲状腺自己抗体陽性、高TSH、FDG-PETで甲状腺集積亢進、高BMI患者はリスク
チロシンキナーゼ阻害薬投与後のICI投与はリスクかもしれない。
いくつかの研究でICIによる甲状腺機能異常は予後良好因子であると報告されている。

診断時に注意すること

基本的に甲状腺機能異常は軽微なので診断は基本的に血液検査(TSH・FT4)に依存する。
甲状腺機能は他の薬剤、Non-thyroidal illness、ヨード造影剤などの影響を受けることに注意する。ICI開始後は半年間、各サイクル毎にTSH・FT4を確認する。その後は2-3ヶ月ごとに半年間確認し、それ以降は半年毎の検査間隔に延ばしてもよい。
ICI中止後も甲状腺機能異常が発症することもあるので、最低2年間はフォローする。

治療

甲状腺機能低下症はレボチロキシンをTSHが正常化を目標に投与する。
甲状腺中毒症は必要に応じてβブロッカーを用いて症状緩和を行う。
バセドウ病では抗甲状腺薬による治療が必要となる。
甲状腺炎に対する大量グルココルチコイドは推奨されない。
重症の甲状腺中毒症や甲状腺眼症では大量グルココルチコイドが考慮される。
軽度の甲状腺中毒症や甲状腺機能低下症では治療なしで経過観察可能。
FT4が正常加減以下、TSHが10mIU/L以上の甲状腺機能低下症はレボチロキシン開始する。
レボチロキシンは1.0µg/kg/日で開始。高齢者や心血管疾患がある場合は25µg/日から投与する。最低6週間程度間隔を空けてから甲状腺機能を再評価し、レボチロキシン量を調整する。

1型糖尿病

ICI関連の1型糖尿病の頻度は0.9~2%程度。
診断時にDKAを発症していることが最大70%と非常に多い。*いわゆる劇症1型糖尿病を呈することが多い。
糖尿病を発症した患者の76%が抗PD-1抗体、8%が抗PD-L1抗体を投与されており、抗CTLA-4抗体投与中の患者は4%と少ない。

診断時に注意すること

高血糖を認めた場合はDKAを早期発見するため尿ケトン体と血中pHを測定する。
ICIによる糖尿病では急性に血糖値が上昇するので、HbA1cはスクリーニングには不適切
インスリンとCペプチドの測定は内因性インスリン分泌能の評価の助けとなる。

治療

DKAに対してガイドライン通りにインスリン静注と補液を行う。
糖尿病は基本的に永続的であり、高用量グルココルチコイドで膵β細胞機能は改善しない。
発症した年にルーチンで合併症評価を行う必要はない。

原発性副腎不全

原発性副腎不全は非常に稀な免疫チェックポイント阻害薬による副作用であり、限られた症例報告しかないため発症頻度を推定するのは困難。2008年から報告されている50000件のirAEのうち原発性副腎不全は451件で、そのうち確定例は46件のみである。いくつかの症例で原発性副腎不全の自己抗体である抗21水酸化酵素抗体が検出されるため、潜在的にリスクがある患者の自己免疫反応がICIによって誘発されたと考えられるが、実際に患者がICI投与前に抗体陽性であったかどうかは不明。多くの症例は甲状腺機能異常など他のirAEを合併している。

診断時に注意すること

早朝採血でコルチゾールの低下、ACTHの正常上限2倍以上の上昇を認める。
はっきりしないときは250µgACTH負荷試験を行う。
経口エストロゲン製剤を使用している患者では血中コルチゾールが上昇するため、副腎不全患者においてコルチゾール値が偽性に正常となることに注意する。
抗21水酸化酵素抗体の測定が推奨される。
副腎CTを撮影して、副腎転移の有無を評価する。

治療

生理量のグルココルチコイドを補充する。基本的に原発性副腎不全は永続性。
原発性副腎不全患者においてはミネラルコルチコイドの補充が推奨される。
フルドロコルチゾン(0.05-0.15mg)と塩分制限なしの食事とする。
ヒドロコルチゾンには多少のミネラルコルチコイド作用があるが、プレドニゾロンはそれよりも弱い作用しかないので、ヒドロコルチゾンからプレドニゾロンにスイッチする場合はフルドロコルチゾンを0.05mg程度の増量が必要になるかもしれない。
シックデイルールの説明、ヒドロコルチゾン自己注射製剤、副腎不全カードの携帯を行う。

副甲状腺機能低下症

原発性副甲状腺機能低下症は非常に稀なirAEで文献では6例しか報告がない。
全ての報告で症候性の低Ca血症を呈しており、倦怠感・しびれ・嘔気・全身脱力などの訴えがある。診断時にCa値は非常に低く5.0~6.5mg/dL(正常8.8~10.0mg/dL)、測定不能もしくは低値〜正常のPTHを伴う。心電図ではQT延長を認める。
6例中3例はイピリムマブとニボルマブの併用療法、2例はペムブロリズマブ、1例はニボルマブ使用患者だった。副甲状腺機能低下症は2~15サイクルで発症した。副甲状腺機能低下症は不可逆。正常の副甲状腺細胞にはPD-1/PD-L1、CTLA-4は発現していないが、副甲状腺癌の30%・副甲状腺腺腫の49%にPD-1が発現していたという報告がある。ICI関連の副甲状腺機能低下症が自己免疫疾患であることは3例にCaSRを活性化させる自己抗体を認めたことに基づく。

診断時の注意すること

低Ca血症を認めたらマグネシウム、リン、25OHビタミンD、PTHを測定する。

治療

他の原因による副甲状腺機能低下症と同様に治療する。高用量グルココルチコイドは推奨されない。治療の目標は低Ca血症による症状を起こさないことと治療による合併症を避けること(腎石灰化、尿路結石など)。

〈参考文献〉
Endocrine-related adverse conditions in patients receiving immune checkpoint inhibition: an ESE clinical practice guideline. Eur J Endocrinol. 2022;187:G1-G21. PMID: 36149449.

免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病に関して勉強したことの簡単なまとめです。...
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総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。