・40-60歳代の亜急性経過の四肢近位筋や体幹の筋力低下
・半数以上がM蛋白陽性でMGUSを合併
・筋力低下の発症前に頚部痛や背部痛を訴える場合もある
・筋生検のゴモリ・トリクローム染色でネマリン小体の評価を行う
はじめに
今週のNEJMのケースで知らない病名だったので勉強。
孤発性成人発症型ネマリンミオパチー(sporadic late-onset nemaline myopathy; SLONM)は1966年に初めて報告された後天的に筋線維にネマリン小体を認めるミオパチー。病因は不明であるが、免疫介在性疾患の可能性がある。
ネマリンは筋繊維の細胞内腔または腔下の糸状(ギリシャ語の「nema」は「糸」を意味する)の凝集体のこと。当初、ネマリンは組織学的に先天性ネマリンミオパチーを規定し、NEB(劣性遺伝)またはACTA1(優性遺伝)の病的変異により発症することが多い単一遺伝子疾患であった。ネマリンは、後に孤発性成人発症型ネマリンミオパチーの定義に使用されるようになった。
疫学・患者背景
約1/50万人で稀なミオパチー。
平均発症年齢は50-60歳(報告例の最年少は25歳、最年長は82歳)。
MGUS合併例はやや男性が多いが、非合併例は性差なし。
50-60%の患者にMGUS(IgGが多い)を合併することが特徴。
HIV合併例の報告もあり、その場合は発症年齢が30歳代と若い。
症状
ほとんどの患者は近位筋と体幹(頸部屈筋や脊柱筋など)の筋力低下と呼吸困難、嚥下困難を呈する。
40歳以上で亜急性に四肢筋力低下で発症し、首下がり、前屈症、呼吸不全、嚥下障害を合併する。
首下がりを合併した107例のミオパチーのうち13%がSLONMという報告がある。
Myopathies presenting with head drop: clinical spectrum and treatment outcomes. Neuromuscul Disord. 2020;30(2):128–36.
約1/3の患者が筋力低下の発症前に重度の頚部痛や背部痛を訴える。
76例のまとめでは筋力低下は上肢近位筋84%、下肢近位筋80%、両方67%、体幹68%に認めた。呼吸困難55%、嚥下障害47%に認めた。53%にMGUSあり。MGUS合併例のほうが進行が早かった。
28例のまとめでは、61%(17/28)にMGUS合併あり。発症年齢の中央値は62歳。診断まで35ヶ月。MGUS合併かどうかで経過や検査結果、予後に変化なし。5年生存率92%、10年生存率68%だった。診断までに要した筋生検の回数は1回68%(19/28)、2回21%(6/28)、3回11%(3/28)。
→1回の筋生検では1/3見逃してしまう。
検査
血液検査
CK:基本的に正常範囲内だが、軽度上昇している例もある。
M蛋白:50-60%で陽性。IgGが多い。κとλは半数ずつ。
CT・MRI
筋肉の萎縮、脂肪化を認める。
後面の筋肉が侵されることが多い。
小殿筋・中殿筋、半膜様筋、ヒラメ筋など。
MRIでは筋炎のようにT2・STIR高信号を示すことがある。
筋電図:筋原性変化
筋生検
ゴモリ・トリクローム変法:ネマリン小体を認める
ATPase染色:Type1線維優位と萎縮、Type2B線維の欠損はない(先天性ネマリンミオパチーとの鑑別)
電子顕微鏡:Z線と同様の電子密度をもつネマリン小体。
ほとんどの症例でゴモリ・トリクローム染色でネマリン小体が認められるが、見逃されることがあるため疑っていることを伝える必要がある。稀に電子顕微鏡でないと認められない症例もあるよう。
*ネマリン小体には疾患特異性がなく、多発筋炎、急性アルコール性筋症、甲状腺機能低下症、脊髄性筋萎縮症、糖原病、顔面肩甲上腕型ジストロフィーなどでもみられるよう。→臨床所見による鑑別が必要。
遺伝子検査で異常は認めない。
呼吸機能検査を行うべき。
治療
免疫グロブリンの静注、化学療法、自家幹細胞移植、グルココルチコイド(またはこれらの併用療法)による治療を受けた患者28人のケースシリーズでは、5年生存率は92%、10年生存率は68%であった。
基本的にはまずIVIGを行うよう。グルココルチコイドや他の免疫抑制薬などを用いる。
・40-60歳代の亜急性経過の四肢近位筋や体幹の筋力低下
・半数以上がM蛋白陽性でMGUSを合併
・筋力低下の発症前に頚部痛や背部痛を訴える場合もある
・筋生検のゴモリ・トリクローム染色でネマリン小体の評価を行う
〈参考文献〉
Aggregating the Loose Threads. N Engl J Med 2024;391:69-76.
抗横紋筋抗体陽性の重症筋無力症に合併したsporadic late-onset nemaline myopathyの1例. 臨床神経学 2020;7:489-494.
免疫治療が効果的であったsporadic late onset nemalin myopathyの2例. 臨床神経 2016;56:605-611.
Sporadic Late-Onset Nemaline Myopathy: Current Landscape. Curr Neurol Neurosci Rep. 2023;23:777-784.
Sporadic late-onset nemaline myopathy: clinico-pathological characteristics and review of 76 cases. Orphanet J Rare Dis. 2017;12:86.
Sporadic late-onset nemaline myopathy: clinical spectrum, survival, and treatment outcomes. Neurology 2019;93(3):e298-305.