・明らかな免疫不全がない患者に播種性非結核性抗酸菌症が生じた場合は抗IFN-γ中和自己抗体による後天性免疫不全症を疑う。
・播種性NTM症の他にサルモネラ、帯状疱疹、クリプトコッカス、CMVなどの細胞内増殖をする病原体による感染症も多い。
・アジア人がほとんどで、50歳代での発症が多い。
・QFTが判定不能であることもスクリーニングに有用。
はじめに
播種性非結核性抗酸菌症患者を診療した際に話題になったので勉強。
播種性非結核性抗酸菌(dNTM)症は血液培養または骨髄、肝臓などの連続性のない複数の無菌臓器からNTMが検出された場合に診断される。
dNTMはAIDSや血液悪性腫瘍の免疫不全をもつ患者に発症するが、2004年にこれらの既往がないドイツ在住のタイ人女性において抗IFN-γ抗体陽性によるdNTMが報告された。
これ以降アジア人を中心に抗IFN-γ抗体陽性による播種性非結核性抗酸菌症の患者が多数報告された。
機序
IFN-γ/IL-12経路はNTMをはじめとする細胞内寄生菌に対する防御機構において重要な役割を果たしている。抗IFN-γ中和抗体が存在していると、マクロファージによる貪食が阻害される。
感染症
抗IFN-γ抗体を有する患者では水痘帯状疱疹ウイルス、サルモネラ、クリプトコッカスなどの細胞内増殖をする病原体による播種性感染症を発症するが、NTMが最多で重要な菌である。
NTMが85.5%で重度の播種性感染症を引き起こす。
M. abscessusやM. avium complexなどが多い。
結核は6.1%程度。
播種性サルモネラ感染症が29-40%と一般細菌では最も多い。
ウイルスでは帯状疱疹が多く、半数程度の患者に既往を認める。CMV感染も多い。
真菌ではクリプトコッカス、ヒストプラズマ、アスペルギルス、カンジダの報告がある。
東南アジア在住の場合はTalaromyces marneffei感染の報告が多い。
頻度
播種性NTM症患者において即知の免疫不全を有さない場合の抗IFN-γ自己抗体の陽性率は日本で81%(30/37)、中国で98%(45/46)、タイ・台湾で84%と高い。アジア人の発症が多く、米国の症例の91%(21/23)が東南アジア出身であった。
2004年から600例以上の報告があり、タイや台湾からの報告が2/3以上を占める。
患者の平均年齢は50歳程度。稀だが10代の発症例も報告されている。
基本的に性差はないが、アジア以外の報告では女性例が多い。
播種性NTM症の特徴
本邦からの報告では40%近くは肺野に病変を認めず、約60%に骨・関節病変、半数にリンパ節病変を認めている。
発熱、倦怠感、咳嗽、骨痛、体重減少などの非特異的症状も多い。
全身の臓器に感染しうるが、リンパ節48-82%、肺61-64%、骨・関節58-61%、皮膚26-70%への感染が多い。
皮膚へはSweet病のような好中球性皮膚炎の報告が多い。
TAFRO症候群やPOEMS症候群との鑑別を要した症例報告が本邦からなされている。
クォンティフェロンの有用性
QFT検査では結核菌特異抗原で刺激された産生されたIFN-γ量を測定するため、抗IFN-γ抗体の存在下では陽性コントロールが感度以下となり判定不能という結果になる。
生来健康であった播種性NTM患者34例のうちQFT-3Gが判定不能であった30例全例で抗IFN-γ自己抗体が検出されたという報告があり、QFTは有用なスクリーニングと考えられる。
抗IFN-γ自己抗体の測定
本邦では熊本大学にて測定を受け付けているよう。
抗インターフェロンγ自己抗体測定照会フォーム(https://kumamoto-respir.com/inf-g-inspection-app)
治療
抗IFN-γ抗体陽性患者の播種性NTM症は難治性・再発性のことが多く治療に難渋する。
抗体価を低下させるために、グルココルチコイド、シクロフォスファミド、リツキシマブ、ダラツムマブなどの治療の有用性が報告されている。
・明らかな免疫不全がない患者に播種性非結核性抗酸菌症が生じた場合は抗IFN-γ中和自己抗体による後天性免疫不全症を疑う。
・播種性NTM症の他にサルモネラ、帯状疱疹、クリプトコッカス、CMVなどの細胞内増殖をする病原体による感染症も多い。
・アジア人がほとんどで、50歳代での発症が多い。
・QFTが判定不能であることもスクリーニングに有用。
〈参考文献〉
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