免疫測定法による甲状腺機能検査は大きく6つに分けられる。①マクロTSH血症 ②ビオチン ③抗ストレプトアビジン抗体 ④抗ルテニウム抗体 ⑤甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs) ⑥異好抗体。
臨床所見と甲状腺機能検査の結果が乖離した場合は干渉を考慮し、2step法など異なる検査法を試してみる。
はじめに
免疫測定法による甲状腺機能検査は大きく6つに分けられる。①マクロTSH血症 ②ビオチン ③抗ストレプトアビジン抗体 ④抗ルテニウム抗体 ⑤甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs) ⑥異好抗体。これらの干渉の頻度は約1%程度と推定されているため、かなりの数の干渉が見逃されている可能性がある。よって甲状腺機能検査における干渉の可能性は、臨床的あるいは生化学的な不一致が生じたときには常に疑うべきである。干渉の特定には通常、検査法の比較、希釈法、ブロッキング試薬、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿などの追加の臨床検査が必要となる。干渉の報告があった症例の50%が誤診や不適切な治療を受けている。
機序
TSHの測定にはサンドイッチ法、FT4・FT3の測定には競合法が用いられている。(下の図ははMBLのホームページより)
マクロTSH血症
マクロTSHはTSHに抗TSH抗体(ほとんどがIgG)が結合したもの。TSHは28kDaと小さく腎臓で容易にろ過されるが、マクロTSHは150kDaであり循環中に蓄積され、血液検査ではTSHが偽性高値となってしまう。マクロTSHに生物学的活性はない。潜在性甲状腺機能低下症の1.62%がマクロTSH血症であったとの報告がある。FT4が正常範囲の上半分であるような潜在性甲状腺機能低下症のパターンをみたときにはマクロTSH血症を疑うといいかもしれない。ポリエチレングリコールで処理したTSHの沈降率が90%を越える場合にはマクロTSH血症を疑う。診断のゴールデンスタンダードはゲルろ過で150kDaのマクロTSH血症を確認すること。ただしマウスに対する異好抗体(HAMA)も150kDa付近に存在するため、HAMAのスクリーニングも行っておく必要がある。
ビオチン
ビオチンは過去の簡単なブログも参照下さい。
ビオチンはストレプトアビジンと結合してしまい、ビオチン化した抗体の結合を阻害してTSHは偽性低値となる。逆に競合法ではFT4,FT3は偽性高値を示す。ビオチンは甲状腺ホルモンだけではなくトロポニンI、25-ヒドロキシビタミンD、副甲状腺ホルモン、エストラジオール、テストステロン、ビタミンB12、LH、PSAの測定にも影響を与えうる。甲状腺中毒症状がない場合はビオチンの内服をしていないか聞く必要がある。
抗ストレプトアビジン抗体
抗ストレプトアビジン抗体による干渉の頻度はわかっていないが、報告数が非常に少ないことからビオチンより少ないと考えられる。ストレプトアビジンはStreptomyces avidiniiによって作られるタンパク質である。ストレプトアビジンはビオチンに対して高い特異性と強い結合力を示す。抗ストレプトアビジン抗体が存在するとビオチンと同様にTSH低値、FT3,4高値となる。TRAbの偽陽性もあるのでバセドウ病と診断しないように注意が必要。
抗ルテニウム抗体
抗ルテニウム抗体による干渉の頻度は<0.1%~0.24%と推定されている。ルテニウムは化学元素で、白金族に属する希少な遷移金属である。ロシュのエクルーシス®試薬はルテニウムを標識として使用している。(TSHの低値)±FT3,4の高値のパターンが多い(20/22)。エクルーシス®を検査で測定したときにSITSHの所見をみたときは抗ルテニウム抗体による干渉も鑑別に加えることを覚えておく。稀だがTSH高値、TF3,4低値となることもあり、他の干渉より様々なパターンを呈しうる。
甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)
T4、T3に対する自己抗体を甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)と呼ぶ。健常人におけるTHAAbsの頻度は1.8%と低いが、自己免疫性甲状腺疾患がある患者には最大40%と多い。よって自己免疫性甲状腺疾患の患者になんらかの干渉物質を疑う場合は甲状腺ホルモンに対する自己抗体(THAAbs)を検査するべき。THAAbの干渉は数ヶ月から数年間持続することがある。THAAbがある患者では、TSHの測定が最も信頼性の高い甲状腺機能検査となる。FT3,4は偽性高値となりSITSHパターンをとる。THAAbsは標識されたT4に結合し、FT4やFT3が偽性高値となる。競合法では1-stepアッセイと2-stepアッセイがあり、理論上は1-stepがTHAAbsの影響を受ける。1-stepアッセイはロシュ、シーメンス、東ソー、2-stepアッセイはアボット、ベックマンなどがある。
異好抗体
異好抗体(HA)とは、動物の免疫グロブリンを認識するヒトの抗体をさす。最もよく知られているHA干渉はHAMA(Human Anti-Mouse Antibodies)で、そのほかヤギ(Goat:HAGA)、ヒツジ(Sheep:HASA)、ウサギ(Rabbit:HARA)等がある。異好抗体による干渉の頻度は0.05~6%とされる。48例の報告では偽性高値が多い、なかでもTSHの偽性高値の報告が多い。
アルゴリズム
免疫測定法による甲状腺機能検査は大きく6つに分けられる。①マクロTSH血症 ②ビオチン ③抗ストレプトアビジン抗体 ④抗ルテニウム抗体 ⑤甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs) ⑥異好抗体。
臨床所見と甲状腺機能検査の結果が乖離した場合は干渉を考慮し、2step法など異なる検査法を試してみる。
〈参考文献〉
Interferences With Thyroid Function Immunoassays: Clinical Implications and Detection Algorithm. Endocr Rev. 2018;39:830-850. PMID: 29982406.
https://ruo.mbl.co.jp/bio/support/method/elisa.html
日本甲状腺学会雑誌 2019;10:57
Variability in the detection of macro TSH in different immunoassay systems. Eur J Endocrinol. 2016;174:9-15. PMID: 26438715.
Spuriously elevated free thyroxine associated with autoantibodies, a result of laboratory methodology: case report and literature review. Endocr Pract. 2014 ;20:e134-9. PMID: 24641934.