・あらゆる種類のグルココルチコイド製剤が医原性副腎不全を起こしうる
・早朝のコルチゾール値が10µg/dL以上あれば副腎不全は否定的であり、HPA系の抑制はないと判断可能。
・コルチゾール値の解釈の際は、24時間以内のグルココルチコイド製剤使用、ストレス、CBG・アルブミン異常がないことに注意する。
はじめに
欧州内分泌学会と米国内分泌学会が合同でグルココルチコイド誘発性の副腎不全の診断・治療に関してガイドラインを発行しました。一部を抜粋・意訳して記載します。
Recommendations
R2.1 3-4週間以内の短期間のグルココルチコイド投与ではHPA系抑制のリスクは低いので漸減せずに中止可能。
R2.4 生理量以上のグルココルチコイド使用中は副腎不全の精査は不要。
R2.5 デキサメタゾンやベタメタゾンなどの長時間型のグルココルチコイドは、長時間型の必要がなければヒドロコルチゾンやプレドニンなどの短時間型のグルココルチコイドに切り替えるべき。
R2.6 生理量のグルココルチコイドを中止する場合は以下の方法で行う。①副腎不全に注意しながら漸減する。②早朝血中のコルチゾール値を測定する。
R2.7 早朝のコルチゾール値が10µg/dL以上であれば安全に中止可能。5-10µg/dLの場合は生理量のグルココルチコイドを継続して、数週から数ヶ月後に再検する。<5µg/dLの場合は生理量のグルココルチコイドを継続して数ヶ月後に再検する。
R2.8 グルココルチコイドを漸減・中止する際にルーチンで負荷試験を行うことを推奨しない。
R2.9 以下の患者では医原性副腎不全が起きる可能性を考慮する。
1. グルココルチコイド非経口製剤を現在または過去に使用していて副腎不全症状がある
2. 複数のグルココルチコイド製剤を使用している
3. 高用量の吸入ステロイド・ステロイド外用剤を使用している
4. 吸入・外用ステロイドを1年以上使用している
5. 2ヶ月以内に関節内ステロイド投与を受けている
6. CYP450 3A4阻害薬を併用している
R2.10 医原性クッシング症候群を認める患者は医原性副腎不全を起こす可能性が高い。
R2.12 医原性副腎不全患者に対するフルドロコルチゾン投与を推奨しない。
疫学・リスク
人口の1%がグルココルチコイド製剤(経口・吸入・経鼻・関節内・外用・経静脈)を長期使用している。視床下部-下垂体-副腎(HPA)系は抑制され、その回復には個人差がある。
メタアナリシスにおいて医原性副腎不全のリスクは経鼻で4.2%(95%CI, 0.5-28.9%)、経口で48.7%(95%CI, 36.9-60.6%)、関節内で52.2%(95%CI, 40.5-63.6%)。
上記は血液検査に基づく頻度で実際に副腎不全症状を発症したわけではないので解釈に注意が必要。症状まで報告した研究に基づくと、症候性は10%のみであった。
医原性副腎不全のリスクは
長時間型 > 短時間型
全身投与・関節内・複数併用 > 吸入 > 点鼻・外用・点眼
高用量 > 低用量
3ヶ月以上 > 3-4週間~3ヶ月 > 3-4週間以内
肥満
高齢者
CYP3A4阻害薬(クラリスロマイシン、アゾール系など)はグルココルチコイドの代謝を遅延し血中濃度を高くする。HPA系が抑制されるため医原性副腎不全のリスクが高くなる。
一方でCYP3A4誘導薬(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなど)はグルココルチコイドの代謝を促進するため急性副腎不全発症のリスクとなる。
グルココルチコイド離脱症候群と副腎不全の臨床的特徴
HPA系軸の回復過程の模式図
グルココルチコイド中止のアプローチ
中止方法は2つ提示されている。1つは血液検査を指標とせずに副腎不全やグルココルチコイド離脱症候群の臨床所見に注意しながら漸減する方法。もう1つは早朝空腹時のコルチゾール値を参照しながら中止する方法。
早朝コルチゾール値を測定する場合の注意点。
①少なくとも24時間グルココルチコイド製剤を内服せず採血する。
②敗血症・手術・外傷などストレス時の状況でないこと。
③CBG、アルブミン値に異常がある患者(経口エストロゲン製剤服用中、妊娠、非代償性肝硬変、ネフローゼ症候群など)に上記のカットオフ値は使用しない。
・あらゆる種類のグルココルチコイド製剤が医原性副腎不全を起こしうる
・早朝のコルチゾール値が10µg/dL以上あれば副腎不全は否定的であり、HPA系の抑制はないと判断可能。
・コルチゾール値の解釈の際は、24時間以内のグルココルチコイド製剤使用、ストレス、CBG・アルブミン異常がないことに注意する。
〈参考文献〉
European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and therapy of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency. Eur J Endocrinol. 2024;190:G25-G51.
MANAGEMENT OF ENDOCRINE DISEASE: Glucocorticoid-induced adrenal insufficiency: replace while we wait for evidence? Eur J Endocrinol. 2021;184:R111-R122.