橋本病、バセドウ病、Riedel甲状腺炎においてIgG4との関連が示唆されている。
IgG4甲状腺炎は非IgG4甲状腺と比べて男性が多く、進行性で潜在性甲状腺機能低下症が多く、びまん性低エコーが目立ち、甲状腺自己抗体も高力価を示すことが特徴。
IgG4が上昇しているバセドウ病患者は高年齢・甲状腺超音波で低エコー領域が目立つ・少量の抗甲状腺薬で病勢コントロールが可能であることが特徴。
Riedel甲状腺炎は唯一他臓器のIgG4関連疾患を伴う甲状腺病変であり、甲状腺外への浸潤が特徴。
2005年に自己免疫性膵炎患者に甲状腺機能低下症・甲状腺自己抗体陽性患者が多いことが報告された。
その後、主に本邦からIgG4関連疾患と甲状腺の関係について研究が行われ、橋本病・バセドウ病・Riedel甲状腺炎において様々な報告がされた。まだ分かっていないことも多い領域ではあるが、現時点で分かっていることを簡単にまとめてみた。
橋本病型IgG4甲状腺炎
橋本病の一部では、病理組織学的にIgG4陽性形質細胞の多い集団が認められる。
(IgG4陽性形質細胞>20/HPF & IgG4/IgG陽性細胞比 >30%)
1983年から2010年に隈病院で甲状腺全摘術が行われた橋本病患者(手術理由は頸部腫脹55名、気管狭窄19名、悪性リンパ腫疑い12名、結節性病変13名、疼痛4名、乳頭癌疑い2名)において28例がIgG4甲状腺炎、77例が非IgG4甲状腺炎に分けられた。IgG4甲状腺炎群では男性が多く(25% vs 4%)、進行性、潜在性甲状腺機能低下症(39% vs 12%)、びまん性低エコー(68% vs 27%)、高い甲状腺自己抗体価などの特徴を示した。
一方他臓器のIgG4関連疾患は合併しないことから、全身性のIgG4関連疾患とは異なる。
橋本病患者の4%にIgG4高値を認めたという報告もあり、IgG4甲状腺炎は稀ではない可能性がある。
バセドウ病
バセドウ病患者109名(男性15名、女性94名、平均年齢44.1±15.2歳)にIgG4測定を行い、7名(6.4%)がIgG4>135mg/dLと高値を示した。
IgG4高値群は非高値群と比べて、有意に高年齢(54.7歳 vs 43.4歳)で甲状腺エコーで低エコー領域が多かった。いずれの症例も少量の抗甲状腺薬でBasedow病の病勢コントロールが可能であり、そのうち3例は甲状腺機能低下症になり甲状腺ホルモン補充が必要だった。
観察期間中にIgG4関連疾患の他臓器病変を発症した症例はなかった。
Riedel甲状腺炎
Riedel甲状腺炎は1896年にRiedelによって報告された非常に稀な炎症性疾患。
緩徐に線維化が進行し、甲状腺組織外まで浸潤することが特徴。
副甲状腺・反回神経・気管に浸潤するとそれぞれ副甲状腺機能低下症・嗄声・呼吸困難を呈する。
石や鉄のように甲状腺が硬くなり、甲状腺未分化がんや悪性リンパ腫と間違えられる。
1.06/10万人の頻度とされ、女性に多い。好発年齢は30-50歳。
FNAでは線維化が強く診断に寄与しないため、組織生検が必要となることが多い。
病理組織でIgG4陽性形質細胞は炎症が強い部位に認められるが、線維化部分では認められない。長期経過に伴いIgG4陽性形質細胞は減少すると考えられている。
Riedel甲状腺炎の38%に他臓器のIgG4関連疾患を合併したという報告もあり、Riedel甲状腺炎はIgG4関連疾患の一部だと考えられている。
212例のメタアナリシスでは平均年齢は47歳、女性が81%。
甲状腺機能は低下症46%、euthyroid44%、亢進症7%、潜在性低下症2%、潜在性亢進症1%。
症状は頸部腫脹89%、呼吸困難50%、頚部痛41%、嗄声41%。症状出現から受診までの平均期間は4ヶ月。
炎症反応上昇70-97%、抗甲状腺抗体陽性は50%以下(抗TPO抗体43%、TRAb20%、抗Tg抗体27%)。82%が手術を受けた。病理組織では線維化100%、リンパ球浸潤98%、閉塞性静脈炎43%。
ステロイドは70%に用いられ、平均PSL40mgで3ヶ月使用された。90%は症状改善して予後良好。
橋本病、バセドウ病、Riedel甲状腺炎においてIgG4との関連が示唆されている。
IgG4甲状腺炎は非IgG4甲状腺と比べて男性が多く、進行性で潜在性甲状腺機能低下症が多く、びまん性低エコーが目立ち、甲状腺自己抗体も高力価を示すことが特徴。
IgG4が上昇しているバセドウ病患者は高年齢・甲状腺超音波で低エコー領域が目立つ・少量の抗甲状腺薬で病勢コントロールが可能であることが特徴。
Riedel甲状腺炎は唯一他臓器のIgG4関連疾患を伴う甲状腺病変であり、甲状腺外への浸潤が特徴。
〈参考文献〉
High prevalence of hypothyroidism in patients with autoimmune pancreatitis. Dig Dis Sci. 2005;50:1052-7. PMID: 15986853.
DIAGNOSIS OF ENDOCRINE DISEASE: IgG4-related thyroid autoimmune disease. Eur J Endocrinol. 2019;180:R175-R183. PMID:30889549.
Elevated serum immunoglobulin G4 levels in patients with Graves’ disease and their clinical implications. Thyroid. 2014;24:736-43. PMID: 24256421.
Riedel Thyroiditis. J Clin Endocrinol Metab. 2020;105:dgaa468. PMID:32687163.
日本甲状腺学会雑誌 Vol.10 No.1 「甲状腺疾患とIgG4関連疾患」