PIT-1は下垂体前葉においてGH,TSH,PRLの産生に必要な転写因子。
非常に稀だが中枢性甲状腺機能低下症患者においてGH・PRLが検出下限以下であれば抗PIT-1下垂体炎を疑う。
抗PIT-1下垂体炎は胸腺腫、悪性リンパ腫などに合併する傍腫瘍症候群。
胸腺腫によって引き起こされる新たな自己免疫疾患として神戸大学のグループが2017年に報告した。
胸腺腫瘍細胞において本来存在していないPIT-1(GH,TSH,PRLの産生に必要な転写因子)が異所性に発現することで免疫寛容破綻が生じ、PIT-1を特異的に攻撃する細胞障害性T細胞が産生され、下垂体GH,TSH,PRL産生細胞を特異的に障害すると考えられている。PIT-1に対する自己抗体が認められる。
その後悪性リンパ腫、原発不明の肝転移症例においても抗PIT-1下垂体炎の症例の報告が同グループからあり、胸腺腫に特異的な疾患ではない下垂体自己免疫疾患・傍腫瘍症候群と考えられている。
下垂体前葉細胞の発生
機序
臨床的特徴
下垂体MRIでは前葉が軽度萎縮もしくは正常。
診断基準
神戸大学のグループが提唱している診断基準は
①後天的なGH・PRL・TSHの特異的な欠乏
内分泌学的所見では、GH・PRLが検出下限以下で、TSH・IGF-1・fT4が低値を示す。
負荷試験でこれらのホルモンの反応が悪い。
他の下垂体ホルモンの分泌の障害がない。
下垂体MRIでは明らかな異常が認められないため、原因不明の中枢性甲状腺機能低下症と診断されることが多い。しかし、造影MRIを行うと一部の患者では不均一な増強を伴うわずかに萎縮した下垂体前葉が認められる。
橋本病や1型糖尿病などの自己免疫疾患を合併する例もある。
②抗PIT-1抗体やPIT-1反応性T細胞の存在
③胸腺腫や悪性腫瘍の合併
ほとんどの患者は、胸腺腫や悪性腫瘍を合併している。
一般に、内分泌学的異常が悪性腫瘍の診断に先行する。
Probable:診断基準①を満たす
Definite:診断基準①と②を満たす
注釈:診断基準③は診断の助けとなるが、内分泌学的異常の診断時には必ずしも明らかではない。
PIT-1は下垂体前葉においてGH,TSH,PRLの産生に必要な転写因子。
非常に稀だが中枢性甲状腺機能低下症患者においてGH・PRLが検出下限以下であれば抗PIT-1下垂体炎を疑う。
抗PIT-1下垂体炎は胸腺腫、悪性リンパ腫などに合併する傍腫瘍症候群。
〈参考文献〉
Autoimmune Pituitary Disease: New Concepts With Clinical Implications. Endocr Rev. 2020 ;41:bnz003. PMID: 31513261.
Two Cases of anti-PIT-1 Hypophysitis Exhibited as a Form of Paraneoplastic Syndrome not Associated With Thymoma. J Endocr Soc. 2020 ;5:bvaa194. PMID: 33506159.