長期間の大量アルコール摂取歴がある患者に全身の痛み・骨痛&低P血症を認めた場合はアルコールによるFGF23関連低リン血症性骨軟化症を疑う。
禁酒により改善するので、ソマトスタチン受容体シンチグラフィやPET-CTなどの高額な検査は不要。
後天性のFGF23関連低リン血症性骨軟化症の原因には腫瘍性と鉄製剤の経静脈投与の2つが知られているが、最近新たにアルコールが原因とされる症例の報告が本邦からなされた。
症例1
43歳男性。主訴は股関節痛と大腿骨痛。20歳代から習慣的に20-30%のアルコール度数の蒸留酒500mLを毎日飲んでいた(純アルコール100g/day)。38歳頃から起床時に左肋骨の痛みを自覚。翌年から重いものを持ち上げるときに背部痛が生じ、徐々に歩行が困難となった。来院2ヶ月前に股関節痛と大腿部痛が出現し、精査のため受診。低P血症とFGF23高値からFGF23関連低リン血症性骨軟化症の診断となり入院。入院後血清P値とFGF23は徐々に改善した。10日目に退院となり、アルコールとの関連を疑い禁酒を推奨したが、患者は飲酒を再開した。退院2ヶ月後(77日目)に血液検査で再度血清P低下とFGF23上昇を認めたので禁酒した。その後の飲酒と禁酒期間のデータに関しては下図を参照。
症例2
60歳男性。主訴は2年前からの再発性の骨折。本症例も20歳代から純アルコール100g/day程度の飲酒をしていた。2年前に股関節痛を生じ、画像検査から大腿骨頭壊死の診断で股関節置換術が施行された。半年前に右大腿部に痛みがあり、右大腿部内側顆骨折と診断された。激しい痛みのため、警備会社を退職。その直後から、両肩、左膝、右足に痛みが出現。骨軟化症が疑われ、血液検査でP低値、FGF23高値を認めたため紹介となった。骨シンチグラフィーで肩甲骨、上腕骨、肋骨、脊椎、腸骨、大腿骨、脛骨、中足骨に複数の偽骨折が検出され、骨軟化症の診断が裏付けられた。FGF23は13日目も高値を維持していたが、血清Pは徐々に上昇した。腫瘍性骨軟化症(TIO)を疑い、111In-ペンテトリオチド・ソマトスタチン受容体シンチグラフィーと18F-FDG PET/CTを施行したが、腫瘍は見つからなかった。さらに、全身のFGF23静脈サンプリングにおいて26箇所の採取ポイントのうち、目立ったFGF23の測定値を示した部位はなかった。case1と同様にアルコール性を疑い17日目に退院。以降禁酒できており血清PとFGF23濃度は正常となっている。
遺伝子検査
この2例では、アルコール摂取とFGF23関連低リン酸血症の発症との間に明らかな関連性が認められたが、大酒家においてこの疾患が稀であることを考えると、この2例では遺伝的な発症傾向が推定された。そこで、遺伝性のFGF23関連低リン酸血症性くる病・骨軟化症に関連する遺伝子と、自己免疫疾患の発症に関連する遺伝子を調べるために、全ゲノム配列の解析が行われた。しかし、スクリーニングした遺伝子の中に関連する変異は確認されなかった。
なぜアルコール多飲によってFGF23が上昇するかは不明。
長期間の大量アルコール摂取歴がある患者に全身の痛み・骨痛&低P血症を認めた場合はアルコールによるFGF23関連低リン血症性骨軟化症を疑う。
禁酒により改善するので、ソマトスタチン受容体シンチグラフィやPET-CTなどの高額な検査は不要。
〈参考文献〉
Induction of FGF23-related hypophosphatemic osteomalacia by alcohol consumption. Bone Reports 15 (2021) 101144.