アミオダロン(®アンカロン)には100mg中に37.5mgのヨウ素を含有するため内服によりヨウ素過剰摂取になり,Wolff-Chaikoff現象を起こし甲状腺機能低下症を発症する可能性が高い薬.
また機序は不明だが甲状腺中毒症を発症する.
75mgのヨウ素を摂取すると無機ヨードは7.0mg程度となる.
それは通常摂取量0.15-0.30mg/日と比べるとかなり多い.
アミオダロンは脂溶性であり、半減期は約100日と長い.
そのため薬剤中止後も毒性が発現することがある.
マネジメントにおいてアミオダロンの中止は必須ではない.
致死的不整脈が起きる場合はアミオダロン継続が必要.
アミオダロン誘発性甲状腺機能異常症は2-24%で起こる.
ヨウ素によるメカニズム
Wolff Chaikoff効果=大量のヨウ素投与による甲状腺ホルモン合成低下
エスケープすると甲状腺機能は正常になる.
エスケープしない(橋本病がベースにある方に多い)場合は甲状腺機能低下症を発症.
Job-basedow効果=ヨウ素投与による甲状腺ホルモン合成亢進
Type1甲状腺機能亢進症が起こる.
(バセドウ病,機能性甲状腺結節がベースにある方に多い)
ヨウ素に関連しないメカニズム
甲状腺に対する直接の毒性→破壊性甲状腺炎→Type2甲状腺機能亢進症
アミオダロンがD2脱ヨード酵素を抑制→T4からT3変換が減少→血中T3減少
アミオダロン内服中は上記作用により健常者でも
開始3ヶ月以内は
FT4↑50%,T3↓15-20%,TSH20-50%↑
3ヶ月以降は
FT4↑20-40%,T3↓20%,TSH正常
上記のようなデータとなるため解釈に注意が必要です.
甲状腺機能低下症 amiodarone-induced hypothyroidism (AIH)
もともと橋本病の基質をもっているときに多い.
典型的に10-20%の患者で発症し,開始後3ヶ月以内の短い期間で起こる.
FT4<0.5,TSH>20では強く甲状腺機能低下症を疑う.
チラージンの補充が原則.
アミオダロンは必要なら継続は可能.
60%は一過性でアミオダロン中止後2-4ヶ月で改善する.
甲状腺機能亢進症 amiodarone-induced thyrotoxicosis (AIT)
Type1:甲状腺ホルモン産生亢進≒バセドウ病
Baseにバセドウ病やPlummer病があり,ヨウ素不足地域でアミオダロン内服した場合に起こりやすい.*本邦ではほとんどいない.
発症時期の予測は困難だが、2-6ヶ月後程度が多い.
メルカゾールで加療する.40-60mg/dayの高用量を要する事が多い.
重症の場合は30mg6時間ごとなど.
アミオダロン中止後尿中ヨウ素排出が正常化する6-18ヶ月までMMIは継続が必要. アミオダロンを再開すると75%がAITを再発する.
Type2:破壊性中毒症 *本邦ではほぼ全症例がType2
アミオダロンによる直接の毒性で甲状腺が破壊され生じる.
内服継続後2~3年後(27-32ヶ月)に生じることが多い.もしくは中止後に起こる(23%).10%程度の発症率.
一過性破壊性中毒症ではアミオダロンを中止した場合でも継続した場合でも2〜6ヶ月後には甲状腺機能は正常になる(正常後低下症に陥る症例も多い)比較的遅発性であり,投与中止後1年以降の発症もあり、アミオダロン継続により再発を繰り返す症例も存在する.治療は必要ならアミオダロンを継続,症状が強い症例ではステロイド薬(30-40mg/day)を2-4週間使用して1-3ヶ月でTaparingする.PSL抵抗性の重症例では甲状腺全摘術も考慮される.
アミオダロン再開に伴う再発は報告によってさまざま(6-75%)で,ステロイド加療後16%がType2 AITが永続性甲状腺機能低下症になる.
〈モニタリング〉
アミオダロン内服前・内服中3ヶ月毎に甲状腺機能をチェックする.
内服終了後も1年間はフォローする.
*Type2 AITは内服中止後7%でおこっている。最長7-16ヶ月後。
まとめ
・アミオダロン内服中の患者では甲状腺機能のフォローが必要
・本邦では橋本病をベースにもつことによる甲状腺機能低下症と長期間経過したあとの破壊性甲状腺機能亢進症が多い
・甲状腺機能低下症はチラーヂン,Type1AITはメルカゾール,Type2AITはプレドニゾロンが治療となる.
・致死的不整脈でアミオダロンが有効なら中止せずに継続する.
参考文献
Ylli D. Evaluation and Treatment of Amiodarone-Induced Thyroid Disorders. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106:226-236. PMID: 33159436.
Trohman RG. Amiodarone and thyroid physiology, pathophysiology, diagnosis and management. Trends Cardiovasc Med. 2019;29:285-295.PMID: 30309693.