抗精神病薬投与による血糖値上昇の機序にはインスリン抵抗性上昇と分泌能低下。
薬剤によって糖尿病発症のリスクは異なるが、いずれの薬剤でも注意は必要。
治療は生活指導、抗精神病薬の変更、メトホルミン。
アリピプラゾール増量に伴う糖尿病悪化と思われるケースを経験したので勉強。
抗精神病薬による血糖上昇・糖尿病の機序として以下の3つがある。
①体重増加の副作用に伴うインスリン抵抗性の上昇
②体重増加を伴わないインスリン抵抗性の上昇 (筋肉・肝臓・脂肪におけるインスリン作用の抑制)
③膵β細胞に直接作用しインスリン分泌能が低下
①抗精神病薬はセロトニン5-HT2、ヒスタミンH1、ドパミンD2受容体のアンタゴニストとして作用し、食欲が亢進し体重増加をきたす。
②抗精神病薬はインスリン受容体基質1(IRS1)を抑制して、インスリン抵抗性を上昇させる。
③抗精神病薬はATP、ムスカリンM3受容体、ミトコンドリアに作用してインスリン分泌を低下させたり、β細胞のアポトーシスを起こす。
抗精神病薬によって体重増加のリスクは異なる。
リスク高:オランザピン、クロザピン、ゾテピン
リスク中:クエチアピン、リスペリドン、パリペリドン、アセナピン
リスク低:アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール
メタアナリシスではオランザピンやクロザピンで有意に糖尿病のリスクが上昇していた。
また投与量に比例して糖尿病の発症リスクは増加する。
アリピプラゾールは体重増加のリスクは低く、糖尿病発症のリスクも比較的低いと考えられるが、DKAを発症したという報告もあるのでやはり注意が必要。
日本ではオランザピン、クエチアピンは糖尿病患者に対する投与は禁忌。
〈治療〉
生活指導
抗精神病薬の変更
オランザピン・クロザピンからアリピプラゾールへの変更は体重減少を期待できる。
メトホルミン
抗精神病薬による耐糖能異常に対して最も多く研究されていて、体重減少や血糖コントロールの改善が期待できる。
SGLT-2阻害薬
抗精神病薬による耐糖能異常に対する研究はないが、体重減少が期待できるので有用かもしれない。
GLP-1作動薬
体重減少が期待できるため有効な治療。
抗精神病薬投与による血糖値上昇の機序にはインスリン抵抗性上昇と分泌能低下。
薬剤によって糖尿病発症のリスクは異なるが、いずれの薬剤でも注意は必要。
治療は生活指導、抗精神病薬の変更、メトホルミン。
〈参考文献〉
Chen J. Molecular Mechanisms of Antipsychotic Drug-Induced Diabetes. Front Neurosci. 2017;11:643. PMID: 29209160.
Cernea S. Pharmacological Management of Glucose Dysregulation in Patients Treated with Second-Generation Antipsychotics. Drugs. 2020 ;80:1763-1781. PMID: 32930957.
Bernardo M. Real-World Data on the Adverse Metabolic Effects of Second-Generation Antipsychotics and Their Potential Determinants in Adult Patients: A Systematic Review of Population-Based Studies. Adv Ther. 2021;38:2491-2512. PMID: 33826090.
Makhzoumi ZHI. Diabetic ketoacidosis associated with aripiprazole. Pharmacotherapy. 2008;28:1198-202. PMID: 18752391.
アリピプラゾール投与開始後に血糖値の上昇をきたした統合失調症の1例 糖尿病 52(4):295∼300, 2009