内分泌

バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)の診断の手引き

バソプレシン分泌低下症(中枢性尿崩症)の診断の手引き

I. 主症候
 1. 口渇
 2. 多飲
 3. 多尿

II. 検査所見
 1. 尿量は成人においては1日3,000ml以上または40ml/kg以上, 小児においては2,000ml/m2以上
 2. 尿浸透圧は300mOsm/kg以下
 3. 高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下
  5%高張食塩水負荷(0.05 ml/kg/minで120分間点滴投与)時に, 血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2).
 4. 水制限試験(飲水制限後, 3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない.
 5. バソプレシン負荷試験[バソプレシン(ピトレシン注射液®)5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿]で尿量は減少し, 尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3).

III. 参考所見
 1. 原疾患(表1)の診断が確定していることが特に続発性尿崩症の診断上の参考となる.
 2. 血清ナトリウム濃度は正常域の上限か, あるいは上限をやや上回ることが多い.
 3. MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4).

IV. 鑑別診断
 多尿をきたす中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する.
1. 心因性多飲症: 高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め,水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める.
2. 腎性尿崩症: 家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症), 薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される. バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない.

[診断基準]
確実例: Iのすべてと, IIの1, 2, 3, またはIIの1, 2, 4, 5を満たすもの.

[病型分類]
 中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である. 1. 特発性中枢性尿崩症: 画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの.
2. 続発性中枢性尿崩症: 画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの.
3. 家族性中枢性尿崩症: 原則として常染色体顕性遺伝形式を示し, 家族内に同様の疾患患者があるもの.

(注1) 著明な脱水時(例えば血清ナトリウム濃度が150mEq/l以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり, 避けるべきである. 多尿が顕著な場合(例えば1 日尿量が10,000mlに及ぶ場合)は, 患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する. 多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や, デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には, 水制限試験にて尿濃縮力を評価する.

(注2) 血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/lの時の推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/ml未満(https:// kannoukasuitai.jp/academic/cdi/index.html).

(注3) 本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり, バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない. なお, デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり, バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない.

(注4) 高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある.

間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。