PBMAHは両側副腎腫大を呈する稀なクッシング症候群。
様々な異所性受容体を介したコルチゾールの自律性分泌が特徴。
重症のクッシング症候群では両側副腎摘出、サブクリニカルクッシング症候群では片側副腎摘出が推奨される。
2023.9.5 更新
概要
両側副腎に多発大結節(>10mm)を有し、副腎全体が大きく腫大する良性疾患。
クッシング症候群の原因としては2%以下と稀な疾患とされてきたが、近年は画像検査で両側性副腎偶発腫瘍として見つかることが多く、その有病率は想定より高いと考えられている。
病変のサイズの割にコルチゾール産生能が低い例が多く、サブクリニカルクッシング症候群を呈する場合が多い。
本邦では40-60歳代男性の両側副腎偶発腫として診断されることが多い。
*クッシング病や腺腫によるクッシング症候群よりも高齢かつ男性が多い。
いままではACTH非依存性と考えられていたが、2013年に結節内にPOMC(proopiomelanocortin)が発現し、局所で産生されたACTHがautocrine/paracrineの機序を介してコルチゾール合成を促進していることが報告され、ACTH非依存性とは言わなくなった。
異所性受容体
PBMAHでは異所性受容体を介したコルチゾール自律性分泌が特徴。
GIP受容体、βアドレナリン受容体、バソプレシン受容体、LH/hCG受容体、セロトニン受容体(5-HT4)、アンジオテンシンⅡ受容体などの異所性受容体が発現し、さまざまな刺激がグルココルチコイド産生を促進している。
PBMAH87例(顕性クッシング症候群52例、サブクリニカルクッシング症候群35例)の報告では約80%でいずれかの受容体が陽性で、複数発現していることも多い。
特にバソプレシン受容体 53%とセロトニン受容体(5-HT4) 34%が多い。
GIP依存性クッシング症候群
1987年に初めて早朝空腹時のコルチゾールが正常で、食後に上昇する食事依存性の片側性腺腫によるクッシング症候群が報告された。その5年後の1992年にGIP依存性のPBMAHの症例が2例報告された。食事に伴いGIPが分泌され、ACTHを介さずにグルココルチコイド合成が亢進する。GIP依存性クッシング症候群では空腹時の血中コルチゾールが低値〜正常で、食後にコルチゾールが上昇するが、ブドウ糖静注では上昇しない。早朝空腹時の採血となる1mgデキサメタゾンが偽陰性となる可能性があるため注意が必要。PBMAHでは全例空腹時と食後2時間のコルチゾール測定が推奨される。
2021年にGIP依存性PBMAHにおいてKDM1A遺伝子の不活性化変異が報告された。
LH/hCG受容体
1999年に4回の妊娠中の一過性クッシング症候群と閉経後のLH上昇に伴う持続性クッシング症候群を呈した53歳女性のPBMAHの症例が初めて報告された。この症例はLHを慢性的に抑制する4週間に1回のリュープロレリン投与で寛解したとされる。治療につながる可能性があるため重要と考えられる。GnRH、LH、hCGに反応するPBMAHの女性患者はメトクロプラミドやバソプレシンにも反応することが多いよう。
遺伝子変異
ARMC5 (armadillo repeat containing 5)
2013年にARMC5(armadillo repeat containing 5)遺伝子異常がBMAH患者の55%と高率に認められることが報告された。
また散発性と考えられたPBMAH患者の約25%、また家族性PBMAHの75%にARMC5の生殖細胞遺伝子変異が認められる。
本邦からの14例の報告では71%にARMC5変異を認め、hot spotとしてc.1855C>T:p.Arg619*が同定された。nが少ないが、本邦でもARMC5変異は多いと考えられる。
ARMC5変異を伴う症例はコルチゾール産生量が多く、より重度のクッシング症候群を呈することが多い。副腎もより大きく、結節も多い。しかし最近の52例のARMC5変異例と300例のwild typeのPBMAHを含むシリーズでは40%以上のARMC5変異例でUFCが正常であったとされる。サブクリニカルクッシング症候群はwild typeでは75%、ARMC5変異例では57%であり半数程度になる。
ARMC5変異例と野生型で異所性受容体の発現に差はないが、GIP受容体の発現はARMC5変異例では認められない。
ARMC5変異例では髄膜腫の合併が報告されており、頭部MRIの撮影が推奨される。
KDM1A
2021年にGIP依存性PBMAH17例全例にKDM1A遺伝子変異を認めたことが報告された。
KDM1は下垂体somatotroph系や膵細胞の分化にいおいて重要な要素だが、副腎における役割は不明。KDM1Aは家族性多発性骨髄腫の遺伝子としても知られており、2例の多発性骨髄腫 or MGUSを合併したPBMAHが報告されている。よってGIP依存性PBMAHではM蛋白のスクリーニングが必要。
KDM1A遺伝子変異のスクリーニング対象者として、1)空腹時の低コルチゾール血症+食後の高コルチゾール血症、2)副腎の組織内に骨髄化生や骨髄脂肪腫を認める場合に行なう。これらの2つの特徴を全く有さないKDM1A変異を有するPBMAHは現時点で報告がない。
その他
PBMAHはMccune-Albright症候群、MEN-1、家族性大腸腺腫症、遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)に合併することがあるが初発症状となるのは稀。
検査
クッシング症候群に対する1mgデキサメタゾン抑制試験、コルチゾール日内変動、尿中遊離コルチゾール測定などは同様に行う。ACTH負荷試験に反応することが多い。
異所性受容体の評価
バソプレシン負荷試験(バソプレシンV1a受容体を介したコルチゾール分泌を評価)
75gOGTT(小腸から分泌される消化管ホルモン、GIPを介したコルチゾール分泌を評価)
(ラシックス)立位負荷試験(β受容体、アンジオテンシンⅡ(AT-Ⅱ)受容体を介したコルチゾール分泌)
LHRH負荷試験(GnRH受容体、LH/hCG受容体、FSH受容体を介したコルチゾール分泌)
グルカゴン負荷試験
メトクロプラミド負荷試験(5-HT4受容体)
ACTH分泌を伴わず、コルチゾール頂値が前値の50%以上増加した場合を陽性とする。
画像
CTでは両側副腎に5cmにも達する粗大な結節が多発して認められるのが特徴。
個々の結節は細胞内の脂質を反映して腺腫と同様の低信号を呈する。
131I アドステロールシンチグラフィ
両側性に取り込みがみられる。左右差がある場合は片側切除の際に参考になる。
治療
両側副腎摘出
顕性のCushing症候群を呈する場合。
腹腔鏡下片側副腎摘出術
サブクリニカルCushing症候群の場合。
117例のBMAH症例において片側副腎摘出で93%が術後寛解。平均72ヶ月(2-168ヶ月)で15%がその後再発し、14%が両側副腎摘出が必要となった。術後32%が副腎不全となり、グルココルチコイドの補充が必要だった(76%が一過性)。
薬物療法
メチラポンやオシロドロスタットなどの他に、GIP受容体、β受容体、LH/FSH/GnRH受容体の異所性受容体の存在が示唆される場合はそれぞれソマトスタチンアナログ、βブロッカー、GnRH作動薬が手術の補助療法として用いられることがある。
フローチャート
家族のスクリーニング
PBMAHの50%以上にARMC5やKDM1A遺伝子の生殖細胞系列変異が認められるため、一等親以内の親族(特に50歳以上、肥満、高血圧、糖尿病)はスクリーニングが推奨される。1mgデキサメタゾン抑制試験や副腎の画像検査などを行なう。
PBMAHは両側副腎腫大を呈する稀なクッシング症候群。
様々な異所性受容体を介したコルチゾールの自律性分泌が特徴。
重症のクッシング症候群では両側副腎摘出、サブクリニカルクッシング症候群では片側副腎摘出が推奨される。
〈参考文献〉
Aberrant cortisol regulations in bilateral macronodular adrenal hyperplasia: a frequent finding in a prospective study of 32 patients with overt or subclinical Cushing’s syndrome. Eur J Endocrinol. 2010l;163:129-38.PMID: 20378721.
Role of unilateral adrenalectomy in bilateral adrenal hyperplasias with Cushing’s syndrome. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2021;35:101486. PMID: 33637447.
Adrenocortical hyperplasia: A multifaceted disease. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2020;34:101386. PMID: 32115357.
Clinical, Pathophysiologic, Genetic, and Therapeutic Progress in Primary Bilateral Macronodular Adrenal Hyperplasia. Endocr Rev. 2023 Jul 11;44(4):567-628. PMID: 36548967.