免疫不全患者において亜急性〜慢性の髄膜炎症状(発熱、頭痛、意識障害)を認めた場合はクリプトコッカス髄膜炎を鑑別に挙げる。
疑った場合は髄液中のクリプトコッカス抗原を提出。
治療はアムホテリシンB+フルシトシンの2剤で開始。
クリプトコッカス概論
ヒトに感染を起こすクリプトコッカスには大きくCryptococcus neoformans とCryptococcus gattii の2種類がある。
日本ではC.neoformansが殆どであり、免疫不全患者に中枢神経系の感染を起こす。
鳥類(特にハト)の排泄物に汚染された土壌中に存在する。
C.gattiは熱帯・亜熱帯地域に多く、ユーカリや針葉樹に存在する。C.neoformansとは異なり鳥類の糞には存在しない。免疫正常者に罹患することもあり、肺炎を起こすことが多い。肺炎もC.neoformansより重症化しやすい。またCryptococcomasを肺や脳に作りやすい。
HIV関連クリプトコッカス髄膜炎は先進国では減ってきているが、2014年の世界で223100人のうち162500人(73%)はサハラ以南のアフリカで発症している。AIDS関連死亡の15%を占めている。
クリプトコッカスの感染臓器として中枢神経と肺が主要臓器である。その他に皮膚・眼・前立腺などに感染することがある。基本的に全ての臓器に感染する可能性があることに注意。
リスク
HIV感染、グルココルチコイド、臓器移植後、リンパ増殖性疾患、モノクローナル抗体(インフリキシマブなど)、サルコイドーシス、抗GM-CSF抗体、糖尿病、肝硬変、腹膜透析、特発性CD4陽性Tリンパ球減少症、SLE、高IgM症候群、高IgE症候群、チロシンキナーゼ阻害薬など。
*非HIV患者のクリプトコッカス髄膜炎の30%に明らかなリスクを認めなかったという報告もある。
症状
数日〜数ヶ月単位、急性〜亜急性と経過の幅は広い。
発熱は50%程度にみられる。典型例では頭痛・意識障害・人格変化・記憶障害などが2-4週間程度の経過で発症する。
免疫不全患者において発熱・頭痛・意識障害など亜急性〜慢性髄膜炎を認めた場合はクリプトコッカス髄膜炎を鑑別に挙げる。
検査
髄液検査
髄圧上昇
HIV患者の70%に20cmH2O以上の上昇を認める。
非HIV患者では上昇していないこと多い。
細胞数
HIV患者では0-50個/μL、非HIV患者では20-200個/μL程度と少なめ。単球優位。
蛋白上昇・糖低下を示すことが多い。
墨汁染色(下図)
HIV患者の75%、非HIV患者の50%が陽性となる。特異度が高い。
髄液培養
診断のゴールドスタンダードだが、結果が陽性となるまで3-5日、長いと1週間程度かかる。非HIV患者の90%が陽性となる。
クリプトコッカス抗原
Titerが真菌量と相関するが、治療の反応性に用いることはできない。
髄液検体では感度93-100%、特異度93-98%と高く、培養より早く結果を得ることができるので疑った場合は提出すべき。
血清検体ではHIV患者の感度は95%と高いが、非HIV患者の場合は真菌量が少ないため感度が80%まで低下する。よって血清のクリプトコッカス抗原陰性では非HIV患者の髄膜炎を否定できるわけではないことに注意が必要である。また抗原量が非常に多い場合はProzone現象によって偽陰性になることがある。Trichosporon asahiiやStomatococcus 、Capnocytophagaの感染症で偽陽性になることがある。
治療
クリプトコッカス髄膜炎のエビデンスはHIV陽性患者におけるデータが多い。2010年のアメリカ感染症学会のガイドラインではnon-HIV患者の場合は導入療法を基本4週間行い、神経学的合併症や培養陽性が続く場合は最低6週間行うことを推奨している。地固め療法と維持療法はHIVとnon-HIVで違いはない。
2022年のNEJMでHIV陽性のクリプトコッカス髄膜炎においてRCTでアムホテリシンBリポソーム製剤 (10mg/kg)1日投与+フルシトシン(100mg/kg)+フルコナゾール(1200mg/日)14日間投与はアムホテリシンB(1mg/kg)+フルシトシン(100mg/kg)7日間、その後フルコナゾール(1200mg/日)7日間投与に対して非劣勢であり副作用も少なかったと報告された。
導入療法
アムホテリシンB+フルシトシン(5-FC) 2-4週間
*腎機能障害がある患者では骨髄抑制・腎障害・肝障害のリスクを最小限にするためにフルシトシンの量を調整する。
*アムホテリシンBは低K・Mg血症のリスクがあり注意。
地固め療法
フルコナゾール内服 400-800mg/日 8週間
維持療法
フルコナゾール内服 200mg/日 6ヶ月~1年
頭蓋内圧亢進のマネジメント
クリプトコッカス髄膜炎の50-70%に頭蓋内圧亢進を認め、合併症や死亡につながる。
髄液検査で初圧が25cmH2O以上の場合は20cmH2O以下もしくは50%以上下げるように連日腰椎穿刺もしくはVPシャントなどを行う。
HIVに対するARTのタイミング
The Cryptococcal Optimal ART Timing (COAT)試験においてクリプトコッカス髄膜炎に対する治療開始1-2週間後 vs 5週間後を比べた場合、5週間後から開始した群で死亡率が低かった。最近のメタアナリシスでは4週間以内にARTを開始した場合に死亡率が上がるとされ、WHOは治療開始後4-6週でARTを開始することを推奨している。
予防
WHOはCD4数100以下のHIV陽性患者ではARTを開始する前に血清のクリプトコッカス抗原をスクリーニングすることを推奨している。もし陽性の場合はpreemptiveな抗真菌薬治療とクリプトコッカス髄膜炎の除外を行う。スクリーニングが困難な場合はCD4数100以下の場合はフルコナゾールによる一次予防を推奨している。
〈参考文献〉
Cryptococcosis. Infect Dis Clin North Am. 2021;35:493-514. PMID: 34016288.
Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles & Practice of Infectious Diseases, 9th ed 262. Cryptococcosis (Cryptococcus
neoformans and Cryptococcus gattii)
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