内分泌

低Na血症(鑑別診断)

はじめに

低Na血症は救急受診患者の7%、入院患者の15-22%に認められる電解質異常。
慢性の低Na血症は認知機能障害、転倒・歩行不安定、骨粗鬆症・骨折、死亡率上昇のリスク。

病態

血清Na濃度は血清総Na量÷細胞外液量である。つまり低Na血症の病態はナトリウム不足ではなく相対的水過剰である。

鑑別

偽性低Na血症

総蛋白が1g/dL上昇する毎に血清Na濃度はみかけ上1〜1.5mEq/L低下する。
中性脂肪が460mg/dL上昇する毎に血清Na濃度はみかけ上1mEq/L低下する。

高張性低Na血症

細胞外液に糖、マンニトール、グリセオールなど浸透圧物質が増えることで細胞内から細胞外に自由水が移動し、血清Na濃度が低下する。
血糖値100mg/dLの上昇につき血清Na濃度は約2mEq/L低下する。

希釈尿を伴う低Na血症(水中毒・Beer potomania)

腎機能が正常であればヒトは尿を50-1200mOsm/Lまで希釈したり濃縮することが可能である。我々は普段食事から溶質を800-1000mOsm程度摂取している。つまり50mOs/Lまで希釈すると16~20Lの尿が産生できる(800mOsm÷50mOsm/L~1000mOsm÷50mOsm/L)。したがって普通に溶質を摂取していれば16~20L以上の水分を摂取しない限り水中毒にはならない。一方でビールばかり飲んでいて食事を摂っていない場合(溶質摂取が200mOsm程度)、4L以上の水分(ビール)摂取で水中毒となる(Beer potomania)。

このような水中毒患者において水摂取を制限したり、溶質不足の患者に溶質(生理食塩水など)の投与を行うと身体に貯留していた自由水が急速に排出され、血清Na濃度が急激に上昇するリスクが高いため要注意である。血清Na濃度をこまめにフォローし、過補正のリスクがあれば尿量に応じて5%ブドウ糖を投与したり、デスモプレシンの使用を検討する。

*腎機能が悪化するとまず尿の濃縮能が低下し、その後希釈能も低下する(上図)。よって高齢者や腎機能障害がある患者では健常人と比べて高Na血症・低Na血症になりやすい。

希釈尿を伴わない低Na血症

低Na血症は相対的水過剰の状態であるので、生体としては希釈尿で過剰な水分を排泄するのが生理的である。希釈尿ではないということは少なくとも抗利尿ホルモンであるバソプレシン(AVP)が分泌されている状態である。

バソプレシンは浸透圧上昇や循環血漿量減少に応じて分泌される(上図)。
下痢・嘔吐、利尿薬、心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群はいずれも循環血漿量減少によってバソプレシン分泌を刺激する。また循環血漿量減少に伴いARR系が亢進し、尿中Naが再吸収されることにより尿中Na濃度は低下する(≦30mmol/L)。利尿薬・腎疾患では尿中Naの再吸収が低下するため、尿中Na濃度が上昇する(>30mmol/L)。

副腎不全

コルチゾールはバソプレシン分泌を抑制している。よってコルチゾール分泌が低下している副腎不全ではバソプレシン分泌の抑制がなくなり、バソプレシン分泌が亢進する。つまりSIADHと同様の病態となる。低Na血症患者における副腎不全の割合は研究にもよるが、1~3%程度とされている。よってSIADH様の低Na血症の患者をみた場合は必ずコルチゾールとACTHを測定し、副腎不全の可能性がないか考える必要がある。

SIADH

浸透圧上昇や循環血漿量低下がない(不適切)にも関わらずバソプレシンが分泌され低Na血症となる病態。

SIADHの原因の頻度は報告により様々だが、悪性腫瘍、薬剤性、肺疾患、中枢神経疾患、その他(疼痛、嘔気、ストレス、運動、全身麻酔など)を鑑別に挙げる。

抗うつ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬が原因として有名。稀だがよく使う薬剤としてNSAIDs、ACE阻害薬、PPIは注意しておく。

〈参考文献〉
Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia. Eur J Endocrinol. 2014;170:G1-47. PMID: 24569125.
Diagnosing and Treating the Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone Secretion. Am J Med. 2016 ;129:537.e9-537.e23. PMID: 26584969.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。