壊死性遊走性紅斑+耐糖能異常・糖尿病+体重減少+口角炎・口内炎・舌炎を認めた場合はグルカゴノーマを想起して、グルカゴンの測定と膵病変を検索する。
グルカゴン>500pg/mLが診断には基本的に必要で、1000pg/mL以上は診断的価値あり。診断時に半数が遠隔転移しており、肝転移とリンパ節転移が多い。
精神神経症状、静脈血栓症、拡張型心筋症を合併することがある。
〈概念〉
グルカゴン産生の膵神経内分泌腫瘍術後に血糖コントロールが改善した糖尿病患者を経験したので勉強。
グルカゴノーマは稀な腫瘍で0.01-0.1/100万人年の発症率。通常実質性で膵尾部にみられる。50歳代に多い。
多くのグルカゴノーマは特発性だが、20%がMEN1関連。逆にMEN1患者の3%程度にグルカゴノーマが発症する。
グルカゴノーマは3cm以上のことが多く、診断時に約半分に遠隔転移を認める。
遠隔転移は肝臓80.5%、リンパ節33.1%、腹膜3.4%、肺2%、脾臓2%程度と肝臓に多い。
壊死性遊走性紅斑(NME)、糖尿病、体重減少が特徴的な所見。
〈症状〉
体重減少60-80%
舌炎・口内炎・口唇炎41%
精神神経症状20%
抑うつ、不眠、認知症、精神病、高揚、誇大妄想、失調、腱反射亢進、視神経萎縮、近位筋の筋力低下など
慢性下痢14-18%
〈身体診察〉
壊死性遊走性紅斑70-80% Necrolytic migratory erythema (NME)
会陰部や鼠径部に紅斑が生じ、次第に四肢に広がる。中央に硬結を生じ、周囲には痂皮、落屑が形成され疼痛を伴う。
発疹が唯一の症状であることもあるが、ほとんどの場合、患者は全身症状を伴う。NMEは、顔面、会陰部、四肢に生じる紅斑性の丘疹または斑点として始まるのが特徴。その後、7日から14日の間に病変は拡大し、合体していく。その後、中心部にはブロンズ色の硬い部分が残り、境界部には水疱、痂皮、鱗屑が生じる。患部はしばしば掻痒感や痛みを伴う。同じプロセスが粘膜にも起こり、舌炎・口角炎・口内炎・眼瞼炎などを引き起こすことが多い。NMEの患者は、しばしば脱毛や爪ジストロフィーを伴う。
〈検査〉
正球性貧血50%
低アミノ酸血症
血中グルカゴン
>500pg/mL以上がグルカゴノーマの診断には必要。健常人は<50pg/mL。>1000pg/mLはグルカゴノーマに対して診断的価値あり。
耐糖能異常68-95%
臨床的に重要な高血糖を呈するのは40%程度。
インスリン分泌は保たれているのでDKAを起こすことは少ない。
画像検査
原発部位は膵尾部40%、膵体部+尾部20%、膵頭部16%、膵体部15%。膵外は極めて稀で1%程度。
CT
グルカゴノーマは大きいことが多いので、ダイナミックCTでほぼ感度100%発見できる。
MRI
膵NETはT1W低信号、T2W高信号が一般的。
ソマトスタチン受容体シンチグラフィ
Functional SSTR-PET imaging with Ga-68 DOTATATE, Cu-64 DOTATATE, and Ga-68 DOTATOC
膵NETにおいて腹腔外の転移病変の検索に使える。
EUS
2-3mmの病変でも検出することができる。生検もできるが、グルカゴノーマの場合腫瘍が大きいことが多いので、ホルモン検査のみで診断できることが多い。
〈鑑別診断〉
<500pg/mL程度までのグルカゴン上昇は低血糖、空腹状態、外傷、敗血症、急性膵炎、腹部手術、クッシング症候群、腎不全、肝不全でも認められる。
壊死性遊走性紅斑はB型肝炎・肝硬変、空腸や直腸の腺癌、小腸の絨毛性萎縮、MDSなどにおいてグルカゴンが上昇していないにもかかわらず認められることがある。
NME様病変は亜鉛欠乏、ペラグラ、クワシオルコル、末期肝疾患、TEN、落葉状天疱瘡、膿疱性乾癬などでも認められる。
〈合併症〉
静脈血栓症(DVT・PE)
グルカゴノーマの5%程度に合併する。
NET患者に説明不能な血栓症を認めた場合にはグルカゴノーマを考慮する。
拡張型心筋症の報告もあり、グルカゴノーマの加療によって心臓病変の改善も期待できる。
〈治療〉
根本治療は膵腫瘍切除術。
グルカゴン上昇に伴う症状に対してソマトスタチンアナログが有効。
肝転移の治療
多臓器への転移、両葉多発がなく肝機能保たれている場合は肝切除が適応となる。
肝動脈塞栓は肝切除の適応がない患者に対して緩和的に行われる。
アブレーションは3cm未満の病変に対して考慮される。
分子標的薬:エベロリムス、スニチニブ
Peptide receptor radioligand therapy (PRRT)
まとめると、壊死性遊走性紅斑+耐糖能異常・糖尿病+体重減少+口角炎・口内炎・舌炎を認めた場合はグルカゴノーマを想起して、グルカゴンの測定と膵病変を検索する。
グルカゴン>500pg/mLが診断には基本的に必要で、1000pg/mL以上は診断的価値あり。
診断時に半数が遠隔転移しており、肝臓8割・リンパ節3割。
壊死性遊走性紅斑+耐糖能異常・糖尿病+体重減少+口角炎・口内炎・舌炎を認めた場合はグルカゴノーマを想起して、グルカゴンの測定と膵病変を検索する。
グルカゴン>500pg/mLが診断には基本的に必要で、1000pg/mL以上は診断的価値あり。診断時に半数が遠隔転移しており、肝転移とリンパ節転移が多い。
精神神経症状、静脈血栓症、拡張型心筋症を合併することがある。
〈参考文献〉
Up To Date “Glucagonoma and the glucagonoma syndrome”
Glucagonoma and the glucagonoma syndrome. Oncol Lett. 2018;15:2749-2755.PMID: 29435000.
Necrolytic Migratory Erythema Associated with a Glucagonoma. N Engl J Med 2020; 383:e39.
Neuropsychiatric symptoms, skin disease, and weight loss: necrolytic migratory erythema and a glucagonoma. Lancet 2020;395:985.