低カリウム血症の鑑別に尿中Clは有用である。
尿中Cl低値・尿中Na/尿中Cl>1.6は神経性食思不振症・神経性過食症など隠れた嘔吐を示唆する。
尿中Na/尿中Cl<0.7は隠れた下剤使用を示唆する。
ピペラシリン使用時も尿中Cl低値の低カリウム血症を呈することがある。
正常血圧の慢性の低K血症(2.8±0.4 mmol/L、平均4.1±0.9年)の99例について検討された。99例のうちGitelman症候群33例、Barrter症候群10例、遠位尿細管性アシドーシス12例が腎排泄の主な原因で、神経性食思不振症・神経性過食症が21例、隠れての緩下薬使用11例、利尿薬使用12例が腎外性の原因であった。
尿中のカリウム排泄は腎排泄の疾患では全て高値であったが、消化器系が原因の場合も50%以上が高値を示していた。
嘔吐や下痢なども重炭酸イオンが尿中に多量に排泄されたり、低Mg血症を併発することで尿中カリウム排泄が亢進することがあるので、尿中カリウム排泄亢進のみで原因が腎排泄と決めることはできない。そこで尿中Clと尿中Naなどカリウム以外の数値がヒントとなる。
緩下薬使用では尿中K排泄は明らかに少ない傾向がある。
尿中Ca排泄は利尿薬、Barrter症候群、遠位尿細管性アシドーシスで多い。
腎疾患では尿中Naと尿中Clは共に高く、その比率は1:1である。一方で、神経性食思不振症・神経性過食症では尿中Naは高いが尿中Clは低値であり、その比率は5.0±2.2と高い。緩下薬を使用している患者では尿中Clに比べて尿中Na排泄は少なくNa/Cl比率は0.4±0.2と低い。
神経性食思不振症・神経性過食症の診断において尿中Na/Cl > 1.6 は感度95.2%、特異度98.7%だった。一方で緩下薬使用患者の診断において尿中Na/Cl < 0.7 は感度86.5%、特異度100%だった。
胃液中にはClが多く(120mmol/L)、Naが少ない(45mmol/L)ため。
便にはNaとKが多く(~130-150mmol/L)、Clが少ないため(10-20mmol/L)
ピペラシリンは循環血漿量減少時には非吸収性陰イオンとして遠位ネフロンに届きK排泄を亢進させ低K血症となる。NaClは近位尿細管で再吸収されるので尿中Clは低値となる。
尿中Clはカリウムの鑑別疾患の右下の部分に当たる。
低カリウム血症の鑑別に尿中Clは有用である。
尿中Cl低値・尿中Na/尿中Cl>1.6は神経性食思不振症・神経性過食症など隠れた嘔吐を示唆する。
尿中Na/尿中Cl<0.7は隠れた下剤使用を示唆する。
ピペラシリン使用時も尿中Cl低値の低カリウム血症を呈することがある。
〈参考文献〉
Identification of the Causes for Chronic Hypokalemia: Importance of Urinary Sodium and Chloride Excretion. Am J Med. 2017;130:846-855. PMID: 28213045.
The Use of Selected Urine Chemistries in the Diagnosis of Kidney Disorders. Clin J Am Soc Nephrol. 2019 ;14:306-316. PMID: 30626576.