内分泌

含糖酸化鉄経静脈投与に伴うFGF23関連低リン血症

〈概念〉
近年の鉄注射剤は数回の投与で鉄の補充ができるため、主に内服困難な患者に使用される。
カルボキシマルトース第二鉄(FCM:ferric carboxymaltose)*®フェインジェクトデルイソマルトース第二鉄(FDI:ferric derisomaltose)フェルモキシトール(ferrumoxytol)の3つの製剤が世界では使用されている。
日本では現在FCMのみ使用可能。
FCM、FDI、(稀にフェルモキシトール)治療中の低リン血症が報告されている。
近年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは低リン血症の発生率、重症度、期間いずれにおいてもFCMのほうが高いことが報告されている。
前向き研究のデータでは低リン血症の発生率はFCM47%FDI4%
低リン血症の発生率を検討したRCTではFCM750mg2回投与とFDI1000mg1回投与を比べ、FCM74%・FDI8%と有意にFCMで低リン血症の発生率が多かった。またP<1mg/dLと重度の低リン血症を認めたのはFCM群のみで、11%に認めた。
低リン血症は一過性と考えられているが、約5%の患者で半年程度持続した。

〈機序〉
含糖酸化鉄静脈投与によってFGF23が上昇し、尿中P排泄が亢進する。
またFGF23の作用で活性型ビタミンDが減少し軽度の低Ca血症、PTH分泌亢進が起きる。PTH上昇がさらなるP濃度低下に寄与する。これらの変化が骨代謝に影響を与え、骨軟化症を引き起こしうる。
なぜFGF23が上昇するのか。なぜFCMだけが有意に低リン血症を起こしやすいかは不明。

〈臨床所見〉
近位筋の筋力低下骨痛骨軟化症が起こりうる。
FCMの高い低リン血症の発生率に関わらず、低リン血症に伴う症状・副作用の報告は少ない。
つまり大半の患者は無症候性で自然軽快していると考えられる。
FCMで低リン血症を起こした77例を解析すると、平均最低P濃度は1.05±0.43mg/dL、低P血症は平均31.2週持続した。
基礎疾患別に解析すると、消化器疾患や婦人科疾患の方が腎疾患患者よりも有症状が多かった。

血液・尿検査では低P血症、尿中P排泄亢進、低〜正Ca血症、1,25(OH)VitD低値、正〜高PTH血症、正〜高ALP血症を呈する。

FCM投与によって高率に低P血症が起こり、そのほとんどが無症候性で自然軽快することを踏まえると、FCM投与例全例に血中P濃度のフォローを行うことは推奨されない
進行性の倦怠感、骨痛、筋力低下を訴える患者では低P血症の精査が推奨される。
FCMを頻回投与する場合は投与前に血中P濃度を確認し、低P血症がある場合は改善するまで投与を控えるか、低P血症のリスクが低いほかの薬剤投与を検討する(本邦ではFCMしかないので困難)。
研究以外ではFGF23測定は必須ではない。
骨痛を訴える患者ではレントゲン、骨シンチ、MRIなど骨軟化症の精査を考慮する。

FCMは数回の投与で鉄が補充できるため、最近使用が増えていると考えられる。
FCM投与に伴う低リン血症に関してはまだ認識不足の印象がある。
今回勉強してみて発生頻度が多いことに驚いた。
FCMを使用する場合はFGF23関連低リン血症の発生に十分に留意する必要がある。
今後本邦でもFDIのようなよりリスクが低い鉄製剤が使えるようになるとよい。

〈参考文献〉
Hypophosphatemia after intravenous iron therapy: Comprehensive review of clinical findings and recommendations for management. Bone. 2021;154:116202. PMID: 34534708.
Effects of Iron Isomaltoside vs Ferric Carboxymaltose on Hypophosphatemia in Iron-Deficiency Anemia: Two Randomized Clinical Trials. JAMA. 2020;323:432-443. PMID: 32016310.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。