内分泌

IGF-1

概要

インスリン様成長因子(insulin-like growth factor; IGF)はプロインスリンと類似した構造を有するペプチドで、IGF-1とIGF-2からなり、胎生期および出生後の成長を調節している。
IGF-1は分子量7647Daの小ペプチドで、99%以上がIGF結合蛋白(IGF binding protein; IGFBP)と結合して複合体を形成している
血中IGF-1濃度はGHと比べて日内変動がないため、GH分泌・生物活性の指標として用いられる

IGF-2はGH依存性に乏しく、インスリン様作用が強い。big-IGF-2を産生する腫瘍において低血糖の原因となる(non-islet cell hypoglycemia; NICTH)

遺伝子と蛋白構造

IGF-1・IGF-2・インスリン遺伝子は同じファミリーの一部である。
IGF-1遺伝子は6つのエクソンから成る複雑な遺伝子。成熟したIGF-1はエクソン3,4でエンコードされている。
IGF-1は70、IGF-2は67のアミノ酸から成る。プロインスリンは長いCペプチド領域を持つ。この3つのペプチドは全てA・B・C鎖をもつ。IGF-1とIGF-2はそれぞれ8もしくは6のペプチドからなるD鎖をもち分解されずに一繋がりの蛋白として分泌される。A鎖とB鎖の領域はプロインスリンと41%、43%同様。

IGF-1受容体

全ての細胞に発現しており、細胞毎の受容体発現量は20000-35000程度に厳密にコントロールされている。これは腫瘍発生制御のため重要であり、動物実験では10万以下では腫瘍の発生は稀とされている。
GH、FSH、LH、プロゲステロン、エストラジオール、甲状腺ホルモンはIGF-1受容体発現量を増やす
インスリン受容体とは46%のアミノ酸が同じ。
2つのαサブユニットと2つのβサブユニットで構成される。αサブユニットはIGF結合ドメインであり、IGF-1に比べてIGF-2は6倍、インスリンは200-300倍結合力が弱い。βサブユニットは膜貫通ドメインを含みチロシンキナーゼ(TK)ドメインに続く。αサブユニットにリガンドが結合することで受容体の構造変化が起き、TKが活性化され、6つのチロシンのリン酸化が起きる。
IGF-1受容体によるシグナルの重要な役割はアポトーシスを防ぐこと。

IGF結合蛋白 IGFBP

IGFBPsは6つの蛋白からなり、IGF-1とIGF-2に高い親和性を持つが、インスリンとは結合しない。IGFBPはIGF-1受容体よりも高い親和性をもつ。IGF-1の99%以上はこの蛋白と結合しており、IGF-1・IGF-2の受容体への結合をコントロールしている。IGFBPの主な役割はIGFの運搬と細胞外IGFの貯蔵。血管外へのアクセスや組織の局在化と分布をコントロールする。IGFBP-3の血中濃度は先端巨大症では増え、下垂体機能低下症では低下する。逆にIGFBP-1は先端巨大症で減り、下垂体機能低下症・オクトレオチドで増える。

IGFBP-3

最も血中に多く、IGF-1に対して最も結合力が強く、飽和状態にある(血中のIGF-1の75%以上がIGFBP-3と結合している)。GH刺激によってIGFBP-3の血中濃度は上がる。IGFBP-3はacid labile subunit(ALS)という他の蛋白とも結合し150kDaの三量体を形成し、半減期が長くなり(16時間)、IGF-1との結合がより強固になる。*遊離IGF-1の半減期は10分、IGF-1とIGFBP-3の二量体の半減期は1-2時間。IGFBP-3はテストステロンエストロゲンT4など他のホルモンによっても合成を調節されている。これらの3つのホルモンが欠乏している場合は血中IGFBP-3濃度が低下するが、補充療法によって回復する。他に血清IGFBP-3濃度を規定している重要な因子は蛋白分解である。妊婦の血清のプロテアーゼはIGFBP-3をIGF-1非結合性のフラグメントに分解する。このプロテアーゼは糖尿病でも活性化する。
IGFBP-3とALSはGHDで血中濃度は低下し、GH過剰や先端巨大症では上昇する。低栄養・インスリン依存性糖尿病・肝硬変ではIGFBP-3値は低下する。

IGFBP-2

IGFBP-2は2番目に多いがIGFBP-3よりも結合力が弱く、半減期も短い(90分 vs 16時間)。IGFBP-2は血管外スペースに入り末梢組織の受容体に結合する遊離IGF-1を速やかに調整している。IGFBP-2は毛細血管壁を通り、血管外へのIGF-1の輸送を行う。IGFBP-2濃度はGHやインスリンによって減少し、IGF-1投与によって増加する。栄養欠乏状態ではIGFBP-2濃度が増加し、遊離IGF-1は低下する。逆に肥満ではIGFBP-2は減少し、遊離IGF-1は増える。

IGFBP-1

IGFBP-1は血中濃度は低いが、非飽和状態にあり24時間で最大5倍も血中濃度が変動するため、遊離IGF-1に対して最も影響がある。IGFBP-1は主にインスリンによる急速支配を受ける。空腹時は5-6倍に増え、食後インスリン分泌によって抑制される。よってIGFBP-1は食事によって24時間血中濃度が変動する。動物へのIGFBP1の投与は血糖値が上昇するため、血糖調節の役割が示唆される。血中IGFBP1は肝臓のインスリン感受性の指標としても使え、インスリン抵抗状態では上昇する。2型糖尿病ではIGFBP-1の上昇が経時的に進行する。

血中IGF-1の制御

肝臓が血清IGF-1の最大のソースであり約75%程度を占め、主にGHとIGF-1によって調節されている。IGFBP-3を調節する因子(GH、甲状腺機能など)によっても血清IGF-1値は影響を受ける。

年齢

IGF-1は年齢の影響を受ける。出生時の20-60ng/mLから思春期には7倍程度増加する。20代で急速に減少し、20歳時は思春期時の最大濃度から40-50%程度になる。そこから60歳までにかけてゆっくり50%程度減少する。この変化の一部はGH分泌の年齢による変化の影響を受けている。

成長ホルモン

GHは血中IGF-1の主要な要因であり、GH分泌低下症の小児は血清IGF-1濃度が95%信頼区間より低い数値であることが多い。GHの血中IGF-1への効果は複雑である。GHは肝臓におけるIGF-1遺伝子翻訳と分泌を刺激するが、増加の一部はIGFBP-3とALSへの刺激による効果もある。よってこれらの3つの蛋白増加に対する負の因子がある場合は血清IGF-1値は低下する。GH欠乏患者にGH補充するとIGF-1値は6-7倍上昇する。先端巨大症患者ではIGF-1は約7倍上昇する。

栄養状態

栄養状態は血清IGF-1血の重要な決定因子。最低20kcal/kgと0.6g/kgの蛋白質が正常値を保つために必要となる。7日間の絶食でIGF-1値は50%も低下する。他にも低栄養状態と関連がある肝不全炎症性腸疾患腎不全などの疾患でも低下がみられる。全てではないが、低栄養状態による多くのIGF1の変化はGH感受性の低下や、GH受容体のダウンレギュレーションによる。一方で、肥満は総IGF-1値の低下と遊離IGF-1値の増加と関連する。

その他のホルモンの影響

IGF-1値は甲状腺機能低下症で低下し、補充で増加する。
エストロゲンはIGF-1値に対する影響は少ない。

末梢組織でのIGF-1産生

肝臓以外の組織でもIGF-1は生成されオートクリン/パラクリン作用があり、血中濃度にも影響し、約25%を占めると考えられている。

 骨と軟骨が2つの重要な筋骨格系のIGF-1 mRNAのソースである。PTHは骨におけるIGF-1遺伝子翻訳を制御する。
 GHは骨芽細胞と軟骨細胞でのIGF-1合成を増やし、この局所の合成は身長促進に寄与している。
 赤血球前駆細胞はエリスロポエチンに反応してIGF-1を合成する。
 卵巣ではFSH刺激によって卵胞液中のIGF-1濃度が上昇する。
 IGF-1はある程度までしかBBBを通過しない。よってCNS局所の合成がIGF-1の重要なソースとなる。
 IGF-1は筋肉の衛星細胞と筋芽細胞で合成される。損傷後にIGF-1合成が行われる再生される。
 腎臓は重要なIGF-1のソース。腎摘出後の反対側の腎臓の代償的増大のときにIGF-1 mRNA発現が増加する。

IGF-1の作用

IGF-1を動物に投与した場合にIGF-1は全ての組織の成長を刺激する。
創傷治癒やGFR増加、蛋白同化を増やす作用がある。
インスリン欠乏ラットにIGF-1を投与すると成長が改善し、糖利用が改善する。
IGFBP-3をIGF-1と共に投与すると、骨のミネラル化と成長がIGF-1単独よりも得られる。

遺伝子改変動物モデル

GH欠損動物でもIGF-1を適切に発現した場合、成長はGH発現している場合と同様となる。IGF-1を完全に欠損した動物では致死的な成長遅延(通常の体重や身長の60%)で、大人まで生きるのは10-20%のみ。IGF-1受容体が欠損している場合は、サイズは45%程度で横隔膜の筋肉の発達不全で速やかに亡くなる。
IGF-1遺伝子が肝臓のみで欠損している場合は、通常サイズで生まれるが、血中IGF-1値は25%程度となる。致死的なIGF-1完全欠損と比べて、この場合はほぼ正常に成長する(6-8%の成長遅延のみ)。
局所のIGF-1産生が欠損し、肝臓が保たれている場合も普通の成長が保たれる。
よって肝臓由来のIGF-1もオートクリン/パラクリンIGF-1の両方とも通常の成長に重要である。

ヒトへのIGF-1投与

カロリー制限したヒトにIGF-1を投与した場合、窒素バランスは正常化する。
同様にカロリー制限したヒトにIGF-1とGHを同時に投与した場合は正の窒素バランスとなる。
その他の効果として
 十分な濃度が投与された場合に血圧が低下する。
 IGFBP-2濃度が3倍増加し、GFRが25%増加する。
 全身の蛋白合成を刺激し、蛋白分解を抑制する。この効果はGHと同時投与でさらに高まる。
 グルココルチコイドの異化作用を部分的にリバースする。
 骨の同化作用。
 2型糖尿病に対するIGF-1の投与はインスリン感受性が3.4倍改善する。
 インスリンや経口血糖降下薬内服中の患者では平均血糖値が改善する。
 遊離IGF-1の投与は用量依存性の副作用を起こす。網膜浮腫、ベル麻痺、重度の筋肉痛など。これらの副作用は40mcg/kg1日2回以下の用量では減る。
 IGF-1は2型糖尿病の治療に承認されていないが、極度のインスリン抵抗性症候群の稀な患者では血糖値のコントロールに効果的に用いられている。

 IGF-1治療はGH受容体変異によるGH不感受性の患者やIGF-1低値(<2.5SD)の低身長患者に有効。副作用は扁桃・顔面軟部組織・腎臓の腫大がいくつかの小児でみられる。
現在IGF-1は低身長(<3.0SD) or IGF-1 <3.0SDかつ正常からGH高値の小児に適用がある。

〈参考文献〉
Up to date; Physiology of insulin-like growth factor 1 *last updated: Feb 10, 2022.
Williams Textbook of Endocrinology. 14th edition.
内分泌・糖尿病・代謝内科, 36[Suppl 4]: 366-371, 2013

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。