内分泌

リチウムと甲状腺・副甲状腺

リチウムを長期内服している統合失調症を既往にもつ方が入院され、橋本病と甲状腺機能低下症を認めたので勉強。

概要

リチウムの抗甲状腺作用はリチウム内服をしていた精神疾患患者に甲状腺機能低下症とgoiterが認められたことから調べられるようになった。
リチウムは甲状腺内のヨウ素含量を増やし、FT3・4の合成・分泌を抑制する。
投与前の甲状腺機能が正常な患者の場合、6-12ヶ月ごとに甲状腺機能を評価すべきである。

goiter

goiterはリチウム内服中患者の40-50%に認める最も多い甲状腺の異常。
リチウムの投与によってFT3・4の分泌が抑制され、下垂体からのTSH分泌が促進する。それに伴いgoiterが起こる。またはリチウムによるIGFやチロシンキナーゼ、Wnt/βカテニンシグナルの機能変化によって甲状腺腫大が起きている可能性がある。goiterは通常投与開始後2年以内に起こる。

甲状腺機能低下症

リチウム内服患者の甲状腺機能低下症もよく報告されている。
11の報告、1700名以上のレビューでは甲状腺機能低下症の頻度は6-52%とされる。
ORは5.78(95%CI, 2.00~16.67)。
甲状腺機能低下症はgoiterがあってもなくても起こる。潜在性甲状腺機能低下症であることが多い。goiterと同様に内服開始後2年以内に発症することが多い。45歳以上の女性がリスクであり、加齢とともにそのリスクは上昇する。
甲状腺機能低下症の治療は通常通りレボチロキシンで行う。
リチウムによる甲状腺機能低下症は可逆性だが、リチウムの内服は基本的に中止しない。
リチウムの内服がなんらかの理由で中止となった場合は、再度甲状腺機能を評価し、補充の必要性を評価する。再評価の決まった方法はないが、投与中止2ヶ月後にTSHを測定する。

橋本病

リチウム内服中に甲状腺機能低下症を発症した患者は背景に橋本病を有していることが多い。リチウム投与前から自己抗体陽性であることが多いが、リチウム投与によって自己免疫が誘導されるかどうかは不明。

甲状腺機能亢進症

2つの後ろ向き研究ではリチウム内服患者は一般集団と比べて甲状腺機能亢進症の発症頻度が2-3倍多いという報告がなされている。14例の報告では8例がバセドウ病、3例がプランマー病、2例が無痛性甲状腺炎であった。

甲状腺疾患に対する治療薬として

リチウムはその抗甲状腺作用から重度の甲状腺疾患に対して用いられてきた。しかしメチマゾールなどの抗甲状腺薬の存在やその副作用から第一選択薬として用いられることはない。

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症に対してリチウム600-1000mg/日が有効。甲状腺ホルモン分泌抑制作用としてはヨウ素と同様なので、ヨウ素アレルギーがある患者で迅速に甲状腺機能亢進症の治療を行いときはリチウムの投与は代わりに有用かもしれない。
リチウムは放射性ヨウ素を甲状腺内に留めることで、その治療効果を高める可能性がある。
1つの後ろ向き研究ではリチウム併用患者のほうが治療効果が高いことが示されたが、RCTでは否定的であった。データが不十分かつリチウムの副作用の問題からヨウ素内用療法に併用することは推奨されない。

甲状腺がん

甲状腺がんに対する131I内用療法を行う場合もリチウムは腫瘍内部にアイソトープを留め、治療効果を高める可能性がある。ただその有用性を評価した研究がないため、リチウムの併用は推奨されない。

副甲状腺機能亢進症

リチウム内服患者では高カルシウム血症、高PTH血症を認めることがある。
313名のリチウム内服患者のうち、82名(26.2%)に高カルシウム血症を認めたとされる。
リチウムは副甲状腺のカルシウム感知受容体(CaSR)の閾値を上昇させ、副甲状腺のカルシウムへの反応性を低下させるとされるが詳細なメカニズムは不明。
10年以上内服している患者では4腺全て腫大している過形成を認めることがある。内服2年程度で腺腫が見つかることがあるが、リチウム内服によって背景にあった腺腫による副甲状腺機能亢進症が明らかにされるという可能性がある。
数年程度の内服であればリチウム内服中止後数週間で血清カルシウムは正常値に戻りうる。

〈参考文献〉
Up to date, Lithium and the thyroid.
Lazarus JH. Lithium and thyroid. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2009 ;23:723-33. PMID: 19942149.
Meehan AD, Udumyan R, Kardell M, Landén M, Järhult J, Wallin G. Lithium-Associated Hypercalcemia: Pathophysiology, Prevalence, Management. World J Surg. 2018;42:415-424. PMID: 29260296.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。