内分泌

MODY

概要

MODY(maturity-onset diabetes of the young)は通常、思春期から若年成人期に発症する非自己免疫性の単一遺伝子疾患による糖尿病群である。常染色体顕性遺伝浸透率が9割と高いため家族歴が重要となる。
MODYの詳細の頻度は不明だが、白人集団を対象とした研究では糖尿病全体の1-3%を占めると考えられている。
MODYを疑うポイントは
思春期あるいは若年成人期の早期発症糖尿病(典型的には35歳未満)
・1型糖尿病らしくない
  ・膵島関連自己抗体が陰性
  ・ハネムーン期(発症後3-5年)を超えても内因性インスリン産生がある
  ・高血糖時にCペプチドの測定が可能
  ・治療のための必要インスリン量が少ない(<0.5U/kg/日)
  ・インスリンを投与しなくてもDKAを起こさない)
・2型糖尿病らしくない
  ・45歳未満の糖尿病発症
  ・明らかな肥満ではない
  ・黒色表皮腫がない
  ・中性脂肪が正常および/またはHDL-Cが正常〜高値
軽度の安定した空腹時高血糖で、薬物療法に明らかに反応せず、進行しない(GCK)
・SU薬に対する感受性が高い(HNF-1α, HNF-4α, KCNJ11, ABCC8)
膵外病変(腎臓:HNF-1β、肝臓、消化管など)
・新生児糖尿病(ABCC8, KCNJ11)または新生児低血糖の既往(HNF-1α, HNF-4α)
・常染色体顕性遺伝と一致する家族歴
  ・1型糖尿病は家系内で発症しうるが多くは散発性(罹患した親をもつ1型糖尿病は2-6%のみ)
  ・2型糖尿病はしばしば家系内で発症するが、2型糖尿病では45歳以上で肥満と関連して発症するのに対し、MODYでは肥満を伴わずに35歳未満で発症することが多い。

MODY一覧

現在までMODY1-14まで報告されているが、日本で複数家系による再現性があり確立されているのはMODY1,2,3,5,6である。

MODYを診断する意義

・1型糖尿病、2型糖尿病の誤診を避ける
・適切な治療を提供できる可能性がある(HNF-1α, HNF-4α-MODYに対するSU薬)
・合併症のリスクや予後予測が可能になるかもしれない
・スティグマや就業制限などを避けることができるかもしれない(特にGCK-MODY)
・親族のリスクの予測が可能になるかもしれない
・適切な患者層でスクリーニングをすると医療費削減になるかもしれない

各論

HNF-1α-MODY (MODY3)

HNF-1αは主に膵臓と肝臓に発現する転写因子である。HNF-1αのヘテロ接合体変異によるMODYであり、最も多いMODYの原因である(約40%)。小児期には耐糖能異常はみられないが、思春期後期から若年成人期にかけて糖尿病を発症する。しかし日本人での診断年齢は10歳前後と早く、学校検尿による診断が多いことによるかもしれない。HNF-1α遺伝子はSGLT2遺伝子の発現をコントロールしているため、HNF-1α-MODYでは尿細管における糖再吸収閾値が低下し、尿糖が陽性になりやすい。進行性のインスリン分泌不全を呈する。SU薬が有効であることが知られており、治療の第一選択である。SU薬への反応が良く、低血糖を避けるため低用量から開始する。

GCK-MODY (MODY2)

グルコキナーゼ(GCK)は膵臓や肝臓でブドウ糖濃度のセンサーの役割をするとされ、GCK-MODYではインスリン分泌に対する血糖値の閾値が高くなるため、出生時より軽度の空腹時高血糖を呈する。インスリン分泌の閾値以外に糖代謝異常はないため、基本的に血糖値は安定して経過し、HbA1cは高くても7%程度で推移することが多い。基本的に無症状なため検診時(学校の検尿、職場検診)や妊娠糖尿病(1%を占める)として指摘されることが多いGCK-MODYは2番目に多い原因であり、無症候性の軽度高血糖を呈するため見逃されている症例が多いと考えられる。
基本的に治療は不要であり、糖尿病合併症も稀である。妊娠時は胎児の遺伝子変異によって異なる。胎児がGCK変異がある場合は、母親と同様にインスリン分泌の閾値なため軽度高血糖に対する胎児のインスリン過剰分泌は起きないため母体の治療は不要である。一方で胎児にGCK変異がない場合はインスリン過剰分泌が起き、巨大児のリスクがあるため、母体のインスリン治療が推奨される。基本的に胎児の遺伝子検査は困難であるため、妊娠第2期の超音波で腹囲が75%タイル以上かどうかで推定される。

HNF-1β-MODY (MODY5)

原因遺伝子はHNF-1αとヘテロダイマーを形成するHNF-1β遺伝子で、腎臓・尿路生殖器・膵臓・肝臓・脳・副甲状腺の発達に関与している。
点変異よりも全エクソンあるいは一部のエクソンの片側欠損が多いという特徴があり、それを反映して孤発例が多い。糖尿病以外に多彩な表現型を合併するが、最も多いのは腎疾患(多発性腎嚢胞腎形成異常腎機能低下など)である。そのためMODY5はrenal cysts and diabetes(RCAD)とも呼ばれる。その他に双角子宮などの性腺形成異常、膵奇形(膵体尾部欠損膵低形成)、肝機能異常高尿酸血症・痛風、原発性副甲状腺機能亢進症、低Mg血症、胆管拡張、気管支拡張、下顎骨奇形などの報告がある。また家系内の同一変異を有する患者でも異なる表現型を呈することが知られている。
SU薬への反応は一般に良くないため、インスリン治療が行われることが多い。

腎臓:腎奇形(単腎、腎低形成、多嚢胞性腎低形成、馬蹄腎、重複腎、水腎症、膀胱尿管逆流症など)、腎嚢胞、腎機能障害、低Mg血症、低Ca尿症
膵臓:膵体部・尾部の低形成・無形成、糖尿病(MODY)、外分泌不全
肝臓:肝機能異常
関節:高尿酸血症・痛風
生殖器:奇形(双角子宮など)
副甲状腺:原発性副甲状腺機能亢進症
脳(染色体17q12欠損患者のみに起きる):精神発達遅滞、自閉症、精神疾患(統合失調症、不安症、躁うつ病など)

HNF-4α-MODY (MODY1)

頻度は稀である。HNF-4α遺伝子は、膵臓においてHNF-1α遺伝子と転写を相互に制御しており、HNF-4α-MODYの表現型は生下時の体重以外はHNF-1α-MODYと類似している。
本邦のデータでは遺伝子診断されたMODYの7%程度とされている。
臨床的特徴として、巨大児新生児期の高インスリン血症性低血糖がある。
治療についてはMODY3と同様で、SU薬に対する感受性が良いとされる。

NEUROD1-MODY (MODY6)

NEUROD1は膵内分泌細胞、消化管内分泌細胞、神経細胞に特異的に発現する転写因子であるが、その変異は極めて稀である。糖尿病診断年齢は10-14歳と比較的均一で、経過中にケトーシスあるいはケトアシドーシスが認められるが、必ずしもインスリン依存ではない。
中枢神経系の異常として精神発達遅滞の合併が起こりうる。

PDX1-MODY (MODY4)

PDX1(=IPX1)は膵臓、膵β細胞の発生/機能に非常に重要な役割を果たしており、ホモ接合変異では膵無形成が起きる。これまで日本人での報告はなく、世界でも4家系ほどで極めて稀と考えられている。

〈参考文献〉
GeneReviewsJapan. http://grj.umin.jp/grj/mody.htm
Case 36-2023: A 19-Year-Old Man with Diabetes and Kidney Cysts. N Engl J Med 2023;389:1993-2003.
Case 6-2020: A 34-Year-Old Woman with Hyperglycemia. N Engl J Med 2020;382:745-53.
ISPAD Clinical Practice Consensus Guidelines 2022: The diagnosis and management of monogenic diabetes in children and adolescents. Pediatr Diabetes. 2022;23:1188-1211.PMID: 36537518.
Hepatocyte Nuclear Factor 1β-Associated Kidney Disease: More than Renal Cysts and Diabetes. J Am Soc Nephrol. 2016;27:345-53. PMID: 26319241.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。