・帝王切開術後のβラクタム薬が無効な産褥熱、菌血症、腹腔内膿瘍ではM.hominisを疑い培養・遺伝子検査を行う。
・治療はクリンダマイシン、テトラサイクリン系、フルオロキノロン系の投与を行う。
産婦人科から帝王切開術後の不明炎症のコンサルトがあり、本菌を疑い勉強。
はじめに
Mycoplasma hominisはMycoplasma属の一種で泌尿生殖器の常在菌。
2018年に分類が改訂され、現在の名称はMetamycoplasma hominisとなっている。
婦人科領域の術後感染症の起因菌として報告されている。
他に脳膿瘍や開胸手術後の創部感染症などの感染症の原因としても知られている。
細胞壁を有さないため、βラクタム系抗生剤は無効である。
低ガンマグロブリン血症の患者では化膿性関節炎を起こしうる。
愛媛大学からの報告
2014年11月から2017年12月に愛媛大学産婦人科で妊婦の泌尿生殖器路から得られた検体でPCRを行い、M.hominisを同定。1074検体のうち5.9%(63検体)でM.hominisを検出。18-24歳の検出率が21.3%と最多。細菌性腟炎患者のうち25.6%(21/82)、帝王切開後に子宮内感染や骨盤膿瘍などの感染症を起こした患者のうち40.4%(17/42)でM.hominisが陽性だった。全例帝王切開前後にβラクタム系抗生剤の治療を受けていた。全例クリンダマイシン(CLDM)投与後に速やかに改善した。全株βラクタム薬、マクロライド系、フォスホマイシン(FOM)に対して耐性であった。一方でCLDM、ミノサイクリン(MINO)、キノロン系に感受性を示した。
→帝王切開術後の感染症患者のうち40%を占めていた。
検査
グラム染色では細胞壁がなく染まらないため検出できない。
M.hominisはチョコレート寒天培地や血液寒天培地で微小なコロニーを形成するが少なくとも3日程度要する。血液培養で検出されない場合もサブカルチャーを実施して検出されている報告がある。
菌の同定には16S rRNA解析や質量分析法が必要となる。
治療
クリンダマイシン、テトラサイクリン系、フルオロキノロン系を用いる。
他のMycoplasmaやUreaplasmaとは異なり14,15員環のマクロライド系は無効である。
・帝王切開術後のβラクタム薬が無効な産褥熱、菌血症、腹腔内膿瘍ではM.hominisを疑い培養・遺伝子検査を行う。
・治療はクリンダマイシン、テトラサイクリン系、フルオロキノロン系の投与を行う。
【参考文献】
Incidence and Antimicrobial Susceptibilities of Mycoplasma hominis in Pregnant Females, Ehime University Hospital. Rinsho Biseibutshu Jinsoku Shindan Kenkyukai Shi. 2020 Apr 25;29(2):53-58. PMID: 32312077.
帝王切開術後の Mycoplasma hominisによる菌血症の2症例. 医学検査 Vol.71 No.1 (2022) pp.165–170.