循環器

ナットクラッカー症候群

10代の女性が左側腹部痛を主訴に来院。来院時に肉眼的血尿を認め、精査を行いナットクラッカー症候群(Nutcracker syndrome, NCS)の診断となったので勉強。

概論

 左腎静脈(left renal vein, LRV)が大動脈と上腸間膜動脈(SMA)に挟まれることで起こる。稀(0.8-7.1%)だが大動脈と椎体の間に挟まることもある。

 血尿(起立性)蛋白尿左側腹部痛、骨盤内うっ血(女性)、精索静脈瘤(男性)などを起こすことがある。

 小児から70代まで幅広い年齢で発症するが、ピークは20-30歳頃。
思春期における急速な椎体の伸びが大動脈とSMAの角度を変えるためと考えられる。
正確な疫学は不明。

 小児の423例(男児218例、女児205例)のシステマティックレビューでは平均年齢12歳で、主訴は血尿が最も多く55.5%、つぎに蛋白尿が49.9%であった。側腹部痛は19.1%にしか認めなかったとされる。

画像検査

ドップラー超音波検査

 疑った場合にまず行う検査。放射線被曝なしにLRVの解剖学的・生理学的評価が可能。
LRVの狭窄とその末梢の相対的拡張を認める。また最高血流速度を比較すると4~5:1以上の比を認める。感度69-90%、特異度89-100%という高い診断能をもつ。

CT・MRI

 矢状断で大動脈とSMAの角度が35°以下であればNCSを示唆する。
 通常は大動脈とSMAの角度は45~90°。
 水平断ではLRVが狭小化する”Beak sign“を認める場合は感度91.7%特異度88.9%
 腎門部と狭窄部の静脈径の比が4.9以上であれば感度66.7%、特異度100%。

血管内超音波検査(IVUS)・静脈造影

 侵襲的治療を行う場合はその前にIVUSや静脈造影などゴールドスタンダードとされる侵襲的検査が行われることが多い。左腎静脈とIVCの圧較差3mmHg以上が診断的となる(健常者では0-1mmHg)。側副血行路が発達した代償性NCSでは圧較差が目立たないことがあるので注意が必要。

治療

保存的治療

 多くの症例(特に小児)では保存的治療で十分とされる。
 成長期に後腹膜や腸間膜の脂肪が増加し、SMA起始部に線維性組織が蓄積することによって小児例の大半が自然軽快する。
 小児の423例のシステマティックレビューでは保存的加療で94.9%(寛解42.8%、改善52.2%)の患者が改善したと報告している。

外科的治療

 腎静脈転位術が非寛解患者に対する標準的な外科的治療であり、速やかに改善を認める。
 再狭窄を起こす場合がある。左腎自家移植はより侵襲的な術式であり再狭窄のリスクは低いが合併症のリスクが高くなる。最近では腹腔鏡下に血管外ステントを留置する術式が行われることがある(下図)。

血管内治療

 より低侵襲な治療として血管内治療が近年行われるようになった。
 血栓予防のために最大3ヶ月間の抗凝固療法や抗血小板療法が必要となる。
 6ヶ月後のフォローアップで96.7%(59/61)の患者で血尿や側腹部痛の改善を認めた。
 約66ヶ月のフォローアップで介入が必要な再狭窄は認めなかった。
 ステントの移動などの合併症のために外科的介入が必要となることがあるのでステントのサイズを適切に選択することが重要となる。

〈参考文献〉
Nutcracker syndrome: diagnosis and therapy. Cardiovasc Diagn Ther. 2021;11:1140-1149.PMID: 34815965.
Nutcracker Syndrome: An Update on Current Diagnostic Criteria and Management Guidelines. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2017;53:886-894. PMID: 28356209.
Nutcracker syndrome in children: Appearance, diagnostics, and treatment – A systematic review. J Pediatr Surg. 2022:S0022-3468(21)00874-5. PMID: 35065803.
Nutcracker syndrome. World J Nephrol. 2014;3:277-81. PMID: 25374822.

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。