ラトケ嚢胞はラトケ嚢の遺残から生じる非腫瘍性嚢胞性病変。
MRIのT1強調画像で高信号の場合は炎症性であり、頭痛や下垂体機能低下症が多い。
視力視野障害を伴う例は手術適応。
頭痛や下垂体機能低下症に対する手術適応は症例毎に検討が必要となる。
〈概念〉
ラトケ嚢胞はラトケ嚢の遺残から生じる非腫瘍性嚢胞性病変。剖検例では12-33%に認めるとされる。
多くは無症候性に経過し特に治療は要しないが、一部は頭痛、下垂体機能障害、視機能障害などをきたす。
下垂体機能障害の発症には慢性炎症(二次性下垂体炎)が関与していることが多い。
症候性ラトケ嚢胞は全年齢層(特に20-50歳)にみられ、女性に多い(1:2)。小児例は稀。
MRI画像のT1強調画像において高信号を示す場合は嚢胞内が粘稠度の高い内容液で満たされていて、炎症を起こしやすく、頭痛や下垂体機能低下症・尿崩症をきたす。
一方T1強調画像で低信号の場合は内容液の粘稠度は低く、嚢胞自体のMass effectが主体となり視野障害や高プロラクチン血症をきたすことが多い。
〈症状〉
頭痛48%
嚢胞のサイズは関係なく、MRIのT1Wで嚢胞内が高信号〜等信号のほうが低信号より頭痛の頻度が多い。
視野障害・視力障害37.8%
嚢胞のサイズと関連あり。CTやMRI所見と関連はない。
〈検査〉
下垂体前葉機能低下24.3%
37人中3人が汎下垂体機能低下症、6人が部分的下垂体機能低下(性腺機能低下4人、副腎皮質機能低下3人、甲状腺機能低下1人)。
下垂体機能低下症と嚢胞のサイズに関連はなかった。MRI T1Wで低信号の嚢胞患者に下垂体機能低下症はみられなかった。汎下垂体機能低下症を呈した患者はすべてT1W高信号だった。
尿崩症・SIADH 8.1%
すべてT1W高信号。
MRI
T1強調画像:高信号2/3 低信号1/3
T2強調画像:高信号1/2
典型的には増強効果は見られないが、圧排された下垂体の辺縁が増強されることがある。
嚢胞内にT1で軽度高信号、T2で低信号を示す結節性構造(waxy nodule)を伴うことがあり(40%程度)、ラトケ嚢胞に特徴的。
造影効果を嚢胞壁にも、結節にも認めない。嚢胞壁に造影効果を認める(rim enhancement)場合は慢性炎症を示唆する。
病理
繊毛や杯細胞を含む単一の立方体または円柱状の上皮。
ときに扁平上皮化生が目立ち、頭蓋咽頭腫との鑑別が困難なこともある。
〈鑑別疾患〉
嚢胞形成性頭蓋咽頭腫
出血性下垂体腺腫
ラトケ嚢胞は基本的にMRIで均一な信号を示す(waxy nodeluを除いて)が、上記はMRIにて不均一。
下垂体腺腫の7割以上が外側に偏位しており、ラトケ嚢胞の9割が正中に位置する。
ラトケ嚢胞は蛋白濃度により様々な信号を示すが、T1Wで高信号、T2Wで低信号はラトケ嚢胞に特徴的。
腺腫は境界不明瞭で増強されることが多いが、ラトケ嚢胞は境界明瞭でまったく増強されないので鑑別可能
〈治療〉
無症候例は経過観察。1年毎にMRIフォローを行う。自然に消退する例もある。
視力視野障害などを伴う症候性のラトケ嚢胞はTSSにて嚢胞内のドレナージを行う。
術後ほとんどの症例で視野障害は改善する。一方下垂体機能低下症が改善するのは37.5%程度しかない。術後尿崩症や下垂体機能低下症を生じることもある。頭痛に関しては経過観察のみでも改善する場合があり、相対的手術適応。
術後1割程度の患者が再発する。扁平上皮化生は再発リスク。
ラトケ嚢胞はラトケ嚢の遺残から生じる非腫瘍性嚢胞性病変。
MRIのT1強調画像で高信号の場合は炎症性であり、頭痛や下垂体機能低下症が多い。
視力視野障害を伴う例は手術適応。
頭痛や下垂体機能低下症に対する手術適応は症例毎に検討が必要となる。
〈参考文献〉
Rathke’s cleft cysts: review of natural history and surgical outcomes. J Neurooncol. 2014;117:197-203. PMID: 24146189.
Rathke’s cleft cysts. Clin Endocrinol (Oxf). 2012;76:151-60. PMID: 21951110.
Magnetic resonance imaging, clinical manifestations, and management of Rathke’s cleft cyst. Clin Endocrinol (Oxf). 2006;64:184-8. PMID: 16430718.