内分泌

全身疾患による下垂体機能障害

下垂体に直接影響する全身疾患

サルコイドーシス

神経サルコイドーシスはサルコイドーシス患者の約5%~15%に発症し、視床下部または下垂体の機能障害は神経サルコイドーシス患者の約1/3に発現する。視床下部/下垂体機能障害のみを呈する患者は稀に報告される。
神経サルコイドーシスの診断は困難であり、血管炎・感染・悪性腫瘍などを除外した上で、特徴的な症状および画像所見が必要となる。病理で非乾酪性肉芽腫の確認もすべきである。血清ACE測定によるサルコイドーシスの診断は感度・特異度の問題が議論されている。
CNSのサルコイド病変は造影CTで造影され、周囲の浮腫や石灰化は伴わないことが多い。
ほとんどの病変は造影MRIで造影され、下垂体茎の肥厚がみられる
視床下部、下垂体茎および視交叉への浸潤を伴うびまん性の広範な髄膜の造影が報告されている。
下垂体機能低下症も多く、性腺機能低下症が90%と最多で、中枢性甲状腺機能低下症67%、成長ホルモン分泌不全症50%、中枢性副腎皮質機能低下症49%と続く。高プロラクチン血症は50%、中枢性尿崩症は2/3の患者に認められる。視床下部病変によって、病的な肥満を伴う過食症や体温調節障害を呈した例も報告されている。視覚障害は視交叉への直接的影響で生じることが多い。
グルココルチコイドや他の免疫抑制薬による治療で病変は消退するが、下垂体機能低下症は通常、不可逆であり、適切な補充療法が必要とされる。

多発血管炎性肉芽腫症 (GPA)

GPAはpauci-immune型の壊死性小血管炎を特徴する全身疾患である。ほとんどの臓器が影響を受ける可能性があり、下垂体病変は1-2%ほどの患者で報告されているが、通常他の臓器病変を伴っている。稀ではあるが下垂体病変のみの患者も報告されている。
中枢性尿崩症が88%と最多で、性腺機能低下症54%、中枢性甲状腺機能低下症37%、中枢性副腎皮質機能低下症28%、成長ホルモン分泌不全症15%と続き、高プロラクチン血症血症が1/3の患者にみられる。画像では下垂体の腫大、辺縁の不均一または均一な造影や中心性壊死・下垂体茎の肥厚を伴う鞍部腫瘍、嚢胞性病変などがみられる。活動性GPAの90%以上でANCAが陽性となるが、この感度は典型的なGPAかつ生検で診断された症例の場合なので、誇張している可能性がある。
治療はリツキシマブやシクロフォスファミドなどが投与され、病変は消失するが下垂体機能低下症は改善しない。尿崩症は改善する例が2/3程度にある。

ランゲルハンス細胞組織球症 (LCH)

LCHでは視床下部や下垂体後葉病変がよくみられる。
中枢性尿崩症が最も多い内分泌異常で、患者の約半数に認められる
前葉機能低下症は20-63%程度にみられ、特に小児発症の症例に多く、GHや性腺系の分泌低下症が多い。視床下部や下垂体茎の障害を示唆する高プロラクチン血症が一部の患者に認められ、性腺機能低下と関係している可能性もある。このような患者ではGHRHやGnRHを特に反復投与した場合に正常な反応がみられるため、視床下部や下垂体茎障害による下垂体機能低下症が示唆される。
中枢性尿崩症を伴うLCH患者の54%にAVP産生視床下部細胞に対する自己抗体が検出される。組織球は抗原提示細胞として働くため、視床下部への浸潤が免疫学的なAVPニューロンの破壊に関与している可能性がある。
画像では下垂体茎の肥厚がよくみられ、下垂体後葉の高信号はよく消失している。FDG-PETで活動性のLCH病変の検出と治療効果判定に用いられることがある。
グルココルチコイド、細胞障害性化学療法、放射線治療によって下垂体機能が改善することはほとんどない。LCH患者の約半数にBRAF V600E変異とMAPKの病的活性化が認められる。BRAF阻害剤、ベムラフェニブによる標的療法は有望な結果を示しており、奏効率は41%から100%と幅がある。

エルドハイム・チェスター病 (ECD)

ECDは多臓器病変を伴う稀な組織球症の1つである。その発症率は増加しており、患者はより早期に診断されるようになっている。50代に多く、やや男性に多い。
LCHと同様に患者の約50%でBRAF V600E変異が報告されている。
臨床症状は様々で、事実上すべての臓器が侵される可能性がある。
ECDによる下垂体機能障害では中枢性尿崩症を起こす事が多く、先行症状であることが多い。原因不明の中枢性尿崩症として発症し、最大12年後に他の臓器病変・症状が出現することもある。視床下部から下垂体にかけての異常は、特発性中枢性尿崩症の診断から数ヵ月から数年後にMRIで現れることがあるため画像フォローが重要となる。
これは、ECDが緩徐に進行することを示唆している。
その他の臨床的特徴には、長骨骨の典型的な両側性骨硬化性病変・骨痛全周性大動脈肥厚を伴う心血管系病変後腹膜線維症・hairy kidney、および眼瞼黄色腫などがある。
確定診断のためには生検が必要であり、典型的には、CD68+/CD1a-/S100-low、Langerin(CD207)-泡沫状組織球が組織学的に同定される。
LCHと同様に近年はBRAF阻害薬、ベムラフェニブの有効性が報告されている。

Rosai-Dorfman病 (RDD)

Rosai-Dorfman病は頸部の著しいリンパ節腫脹を特徴とする稀な組織球症である。
稀に前葉と後葉の下垂体機能障害を合併することがある。

鉄過剰・ヘモクロマトーシス

特発性ヘモクロマトーシスや頻回の輸血、鉄剤の長期使用によって組織に鉄過剰沈着を起こした患者の半数以上に性腺機能低下症が発症する。鉄過剰による下垂体機能低下症で最も多いのは低ゴナドトロピン性性腺機能低下症である。ACTH分泌不全症も遺伝性ヘモクロマトーシスの中年患者に多いが、GH・TSHの分泌はほとんどの患者で正常である。
輸血関連ヘモジデローシスの患者の報告では54%に性腺機能低下症があり、2名にCRH刺激に対するコルチゾールの反応低下がみられ、GH・TSH分泌に異常がある患者はいなかった。月経による出血のため女性は男性より影響を受けにくかった。
組織学的には鉄沈着を下垂体のgonadotrophsに認め、lactotrophsにも少ないが認められる。ヘモクロマトーシス患者ではMRI T2強調画像で異常低信号を呈しうる。
下垂体の大きさが保たれている患者の一部で鉄キレート治療による下垂体機能の改善を認めることがある。

アミロイドーシス

内分泌腺へのアミロイド沈着は全身性アミロイドーシス患者で報告されているが、内分泌機能障害は稀である。甲状腺が最も多い臓器だが、副腎・膵臓・精巣・下垂体などにも沈着する。高齢者由来の正常なヒト下垂体では、顕微鏡的アミロイド沈着が血管壁や間質領域に頻繁に観察される。全身性アミロイドーシスの患者では、下垂体血管にアミロイドが沈着していることがあるが、通常は下垂体機能異常はない。下垂体機能低下症を起こした患者はごくわずかである。アミロイドの沈着はPRLとGH産生腺腫の2/3、非機能性下垂体腺腫の半数にみられる。

ファブリー病

ファブリー病はライソゾーム酵素α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)の活性欠如または低下によるX連鎖性潜性遺伝のライソゾーム病である。病気の進行や特定の臓器障害の速度は患者によって様々である。脳心血管障害、腎機能障害が主な死因となる。
ファブリー病患者では副腎と甲状腺に異常が起こるが、下垂体も血管が豊富で増殖率が低いことから標的臓器になりうる。ファブリー病では副腎不全甲状腺機能低下症乏精子症/無精子症月経異常などの内分泌異常が起きる。先端巨大症様顔貌の患者が報告されている。
下垂体ではempty sellaが多く、下垂体サイズも有意に小さいことが報告されている。しかし下垂体機能はほとんどの症例で正常である。

下垂体転移性病変

視床下部下垂体領域への遠隔転移は悪性腫瘍患者の剖検例の約1/3に認める。
下垂体への転移は後葉下垂体茎が多い。
肺癌乳癌が最多で、甲状腺癌・前立腺癌・腎癌・消化器癌・悪性黒色腫・悪性リンパ腫が続く。
転移に伴う症状は2.5-18.2%の患者に生じ、視覚異常48.8%、中枢性尿崩症38.4%、汎下垂体機能低下症37.7%、頭痛35.3%などが起きる。中枢性甲状腺機能低下症、中枢性尿崩症、副腎皮質機能低下症は最大2/3の患者に生じる。


自己免疫性疾患と下垂体機能障害

IgG4関連下垂体炎

IgG4関連疾患の一部として下垂体炎が発症しうる。中高年男性に多い。
IgG4関連下垂体炎はIgG4の上昇と下垂体へのIgG4陽性形質細胞の浸潤が特徴である。
尿崩症(70/89)、前葉機能障害(86/102)をほとんどの症例で認める。
IgG4関連下垂体炎の診断基準は提案されているが、完全ではない。
血清IgG4上昇、下垂体・下垂体茎の腫大、他臓器病変の存在、グルココルチコイドへの反応性良好の場合はIgG4関連下垂体炎の診断で間違いないだろう。ステロイド治療によって下垂体機能が改善することは少ない。下垂体病変のみの場合は悪性リンパ腫でもIgG4陽性形質細胞浸潤がみられることがあるので、経過を慎重にフォローする必要がある。

SLE

SLE女性は健常人と比べて血中エストロゲン濃度が高く、アンドロゲン濃度が低い。
SLE患者は男女ともLH・FSH・PRL濃度が高い。リンパ球性下垂体炎は膠原病に合併しやすいことが知られており、1.3%の患者がSLEを背景疾患に持っていた。
SLE患者の20-30%に高プロラクチン血症を認めるが、プロラクチン値はプロラクチノーマほど高くなく、薬剤や腎不全などの二次性の要素に伴う可能性がある。

関節リウマチ

RA患者では慢性的なサイトカイン血症・炎症の影響のためか、相対的にグルココルチコイド産生が不足し、代償的にACTH過剰が起きていることがある。グルココルチコイド投与を一度も受けていないRA患者(Non-GC-treated RA)は健常人と比較して基礎値のコルチゾールは変わりないが、インスリン低血糖試験時のコルチゾールの反応が低いことが知られている。またNon-GC-treated RA患者は副腎アンドロゲン産生が変化している。

シェーグレン症候群 (SjS)

シェーグレン症候群における内分泌異常ではHPA系(DHEA-S、ACTH、昼のコルチゾール値の低下)、HPG系(エストロゲンの反応性低下)、GH系(IGF1受容体の発現低下)などが報告されている。高プロラクチン血症を呈した報告やリンパ球性下垂体炎の合併の報告がある。

Tolosa-Hunt症候群

トロサ・ハント症候群は海綿静脈洞や上眼窩裂の特発性後眼窩炎症によって眼痛・動眼神経麻痺を起こす稀な疾患である。下垂体前葉・後葉の機能障害の合併が報告されている。
特徴的なMRI所見は、上眼窩裂から眼窩尖に広がる海綿静脈洞の拡大および増強だが、炎症性病変が下垂体腫瘍を模倣することもある
組織学的には、非特異的な肉芽腫性または非肉芽腫性の炎症がみられるが、臨床症状やMRIに基づいて診断が可能であるため、病理組織を採取することは推奨されない。
グルココルチコイド治療により、通常72時間以内に疼痛は消失するが、神経麻痺は数週間持続することがある。

感染症による下垂体機能障害

結核

結核は視床下部・下垂体領域に感染し、下垂体腺腫または脳出血を模倣した鞍部結核腫または結核性下垂体炎を起こすことがあり、時に下垂体機能低下症を来す。
結核性髄膜炎患者115人を含む研究において、62人に下垂体機能低下症がみられ、性腺機能低下症34%が最も多く、次いで高プロラクチン血症23%、甲状腺機能低下症17%、副腎皮質機能低下症13%、成長ホルモン分泌不全症8%だった。SIADHは10%にみられ、中枢性尿崩症を合併した患者はいなかった。
鞍部結核腫の診断は、特に全身性の結核を認めない患者では難しい。下垂体結核腫は他の鞍部腫瘤病変に類似している。一部の症例では下垂体茎の肥厚がみられる。
抗結核薬が第一選択だが、場合によっては手術が必要な場合もある。稀に抗結核薬投与後に下垂体機能が改善した症例が報告されている。

AIDS

AIDSに伴う内分泌障害はウイルス感染自体に加え、日和見感染、免疫抑制などの影響を受ける。AIDS患者では視床下部・下垂体はHIVや他の日和見疾患(CMV、PcP、クリプトコッカス、トキソプラズマ、MAC)などに感染し、下垂体機能低下症を呈することがある。AIDS患者には中枢神経悪性リンパ腫も発生しうる。下垂体に直接の感染がなくても、AIDS患者の場合は機能低下症がみられることが多く、全身消耗によってeuthyroid sick syndrome、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症がみられる。稀にGH分泌不全症や高プロラクチン血症がみられる。HPA系の異常も多く、副腎皮質機能低下症も高コルチゾール血症(ACTH低下や高値)もみられる。副腎皮質機能低下症の原因は下垂体・副腎の感染、出血、壊死など様々である。HIV患者の多くはACTH・コルチゾールの基礎値が高く、デキサメタゾンによる抑制を受けず、CRHへの反応性が低下している。ステロイド産生がDHEA-Sやアルドステロンからコルチゾールにシフトし、サイトカインがHPA系を刺激している説が提唱されている。
抗レトロウイルス薬の使用により、インスリン抵抗性や脂肪ジストロフィーなどの合併症が出現した。治療を受けているAIDS患者の特徴的な表現型は、クッシング症候群に類似しているかもしれない。部分的グルココルチコイド抵抗性(グルココルチコイド受容体が増加し、グルココルチコイド親和性が低下している)がAIDS患者の一部で観察されており、おそらくHIVによって誘発されたサイトカインの分泌および作用の変化に起因している。
抗レトロウイルス療法によって誘発されるリポジストロフィーは、顔面にも及ぶことがあり、先端巨大症のような顔貌を呈することがある。
性腺機能障害は、HIV患者では一般的であり(一次性腺機能低下症および二次性腺機能低下症の両方)、疾患の経過とともに様々に変化する。男性では、病初期にはテストステロン値は上昇または正常で、基礎LHが高く、GnRHに対するLH応答が大きく、遊離テストステロン値も上昇する。その後、中枢性腺機能低下症のパターンが生じる。女性では、HIV感染初期には月経は正常であるが、AIDS女性では無月経がしばしばみられる。

下垂体膿瘍

下垂体への細菌感染は血行性感染髄膜炎や副鼻腔病変からの直接進展によって起こる。下垂体膿瘍は稀だが、重篤な感染症である。下垂体手術・下垂体腫瘍・免疫抑制状態は下垂体膿瘍のリスクだが、2/3の患者は特に異常がない下垂体に発症し、感染源も不明なことが多い。頭痛、下垂体機能障害、視野障害が一番多い症状である。発熱、WBC上昇、髄膜刺激症状などは1/3の患者にみられる。66例の報告では、下垂体前葉機能低下症が82%と最多で、頭痛70%、中枢性尿崩症48%、視覚障害46%、次いで感染関連症状44%であった。周囲の造影効果を伴う下垂体腫瘤は膿瘍を示唆するが、必ずしも認めるわけではない。多くの症例で術中に診断が判明するが、近年は術前に診断される例が増えてきている。グラム染色や培養で起因菌が同定されるのは20%のみで、GPC、特にブドウ球菌とレンサ球菌が多い。
手術によるドレナージが必要な症例が多い。死亡率は他の下垂体疾患より高く8.3%ほどある。適切な治療で頭痛や視野障害は改善するが、内分泌異常は改善しないため補充が必要となる。

髄膜炎

髄膜炎や脳炎などの急性の中枢神経感染症は下垂体機能低下症を起こす。成人の急性髄膜炎患者の19%に成長ホルモン分泌不全症を急性期に認め、12ヶ月後には43%に増加した。またACTHと性腺機能低下症は急性期において13%に認められた。小児においては急性髄膜炎後の下垂体機能低下症は成人ほど一般的ではなく、髄膜炎6ヶ月後において3/37に成長ホルモン分泌不全症が認められた。下垂体機能低下症を起こす理由ははっきりわかっていないが、急性感染によって自己免疫が誘導されるのではと推測されている。

梅毒

視床下部や下垂体の梅毒腫は稀だが、下垂体腺腫を模倣しうる。
梅毒による下垂体炎は稀だが数例症例報告がある。HIV合併患者に多く、下垂体の腫大・下垂体茎の肥厚を伴い汎下垂体機能低下症を呈するが、治療後に改善している例が多い。

真菌感染症

視床下部・下垂体領域への真菌感染は稀で、通常易感染性患者に発症し、アスペルギルスノカルジアカンジダがほとんどである。MRIではrim enhancementを伴う腫瘤性病変を形成し、下垂体腫瘍を模倣する。組織のグロコット染色、PCR、培養検査によって診断される。血行性感染が多いため下垂体後葉が障害されることが多く、中枢性尿崩症を起こすことが多いが前葉機能低下症、特に性腺機能低下症も起こす。治療は手術と抗真菌薬投与である。

ウイルス感染症

髄膜炎(HSV、VZV、エンテロウイルス)、髄膜脳炎(HSV、インフルエンザ、コクサッキー)、脳炎(ダニ媒介性脳炎、HSV、CMV)、神経ボレリア症などを起こす多くのウイルスが視床下部・下垂体機能障害を起こしうる。下垂体ホルモンの単独欠損や汎下垂体機能低下症が急性期や感染数ヶ月後に発症することがある。ハンタウイルスによる腎症候性出血熱では約20%の患者に下垂体機能低下症が起き、下垂体萎縮やempty sellaを認め、剖検例では下垂体出血や壊死が認められている。

寄生虫感染

トキソプラズマは易感染性患者において中枢神経に慢性感染を起こすことがあり、稀に下垂体機能低下症・中枢性尿崩症をきたす。通常局所の神経症状、頭痛、発熱を伴う。MRIでは通常強い造影効果と周囲の浮腫を認めるため、転移性腫瘍と誤診されることが多い。
シャーガス病も稀に下垂体機能低下症を起こす。

ヘビ咬傷

南アジアではラッセルクサリヘビ(Russell’s vipers)と呼ばれるヘビによる咬傷やヘビ毒が一般的にみられる。ラッセルクサリヘビの毒には活性化第Ⅴ因子、第Ⅹ因子などが含まれており、凝固系に影響を与え、DICが30分以内に発症することがある。また血管内皮を損傷し、血小板機能障害を起こすhemorrhaginというメタロプロテアーゼも含まれている。これらは血栓症や自然出血を引き起こし、その後浮腫やショックを起こす。急性腎不全が死因となることが多い。下垂体の微小出血や梗塞による汎下垂体機能低下症が急性期や慢性期に起こることがある。他のヘビ毒による下垂体機能低下症の報告は稀である。

血管障害による下垂体機能低下症

脳梗塞

下垂体は血管・血流が豊富な臓器なので虚血に弱い。脳梗塞後の患者の19%から最大82%に下垂体機能障害があったと報告されている。成長ホルモン分泌不全症が最も多いが、性性腺機能低下症や副腎皮質機能低下症も報告されている。ある前向き研究では脳梗塞1-3ヶ月後に36%(GHD30%、LH/FSH分泌低下11%、ACTH分泌不全症2%、TSH分泌不全症0%)、12-15ヶ月後に37.5%(GHD35%、LH/FSH分泌低下6%、ACTH分泌不全症2%、TSH分泌不全症0%)と報告しており、脳梗塞関連の下垂体機能低下症は遷延性であることが示唆される。

くも膜下出血

くも膜下出血に伴う下垂体機能低下症の頻度は0-55%と報告によって様々である。急性期に発症し改善することが多いが、慢性期に生じることもある。中枢性尿崩症は急性期の15%、1年後の3%に認められる。20の研究のメタアナリシスでは下垂体機能低下症は急性期の49%、慢性期の26%に生じると推定されている。下垂体サイズも小さくなり、サイズは神経精神障害と長期の内分泌障害と関連する。

脳動脈瘤

トルコ鞍部周囲の大きな動脈瘤は下垂体を圧迫し、下垂体機能低下症を起こすことがある
また巨大内頸動脈瘤は下垂体腫瘍のmimicになることがある。

Sheehan’s症候群

シーハン症候群は分娩時の大量出血後に下垂体の虚血や壊死によって発症する。
下垂体機能低下症の発症は通常緩徐で、診断までに何十年かかる(中央値10年)。
典型例では授乳ができなかったり、月経再開がなかったという病歴がある。
慢性期では、MRIで下垂体のempty sellaを認めることが多い。

頸動脈海綿静脈洞瘻 (CCF)

頸動脈海綿静脈瘻の患者は通常、視力低下眼球麻痺眼瞼下垂を呈するが、下垂体機能低下が起こることがある。ホルモン欠乏を伴わない静脈瘤による下垂体肥大も報告されている。術前の動脈造影検査と血管内治療がマネジメントの中心となる。
稀にTSS後に頸動脈海綿静脈洞瘻が起きることもある。

全身状態による下垂体機能の変化

systemic illness

疾病・外傷・ストレスは重篤であれば、様々な内分泌異常を原因に関係なく引き起こす。
ACTH・コルチゾール分泌は急性のストレス・疾病で増加する。副腎アンドロゲンは急性期に上昇するが、数週経過すると正常に戻る。アルドステロンの分泌はアンジオテンシンⅡの刺激にも関わらず低下する。これらはコルチゾール分泌を最大化するためにアンドロゲンとアルドステロン産生がシフトしていると考えられる。
長期間の身体的ストレスや疾病(大手術や重症感染症)はnonthyroidal illness syndromeeuthyroid sick syndromeを起こす。甲状腺ホルモン補充は不要であり、死亡率は変わらない。
GHはストレスによって分泌が刺激されるが、血中IGF-1は低値となる。GHとIGF-1は回復後に正常化する。
プロラクチンはストレス、急性or重症疾患、手術、けいれん、外傷で上昇する
疾病時は低ゴナドトロピン性性腺機能低下症となるが、機序はよく分かっていない。LHは一過性に上昇するが、すぐに正常化する。数日から数週続くとLHとFSHは正常か低値となる。GnRH刺激による反応も低下することがある。

肥満

血清コルチゾール・ACTH、尿中遊離コルチゾール・TSH・甲状腺ホルモン・PRLは肥満患者でも正常。
GHは肥満患者で低下しているが、IGF-1は正常もしくは軽度低下している。
男性肥満患者では精巣機能は正常であり、総テストステロンはSHBG低下によって低値を示す可能性があるが、遊離テストステロン・LH・FSHは通常正常である。
極度の肥満患者では脂肪組織によって副腎アンドロゲンがエストロゲンに過剰に生成されることによりLHが低下し、遊離テストステロンさえも低下することがある。
閉経前の肥満女性では高アンドロゲン血症、高LH血症、多嚢胞性卵巣症候群を伴うことがある。

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)

PCOSは生殖可能年齢の女性の最低でも10%に影響する疾患であり、アンドロゲン過剰・排卵障害・多嚢胞性卵巣のうち2つがみられる場合に定義される(Rotterdam criteria)。
ゴナドトロピンの異常は一般的で、LH値の上昇とLHパルス頻度の上昇があり、FSHは正常もしくはやや抑制されている。LH/FSH比が上昇し、通常は>2/1で3/1以上となることもある。卵胞発育に対する不十分なFSHシグナルは、エストロゲン値の低下と排卵障害の主な原因だが、アンドロゲンとLH値の上昇も関与している。
PCOS患者の50%で血中コルチゾール値も上昇するが、その機序は不明で、5α還元酵素の活性上昇によってコルチゾールの不活化も増えている。軽度のUFC高値も半数に認めるが、デキサメタゾンによる抑制は保たれている
GH値は低下し、負荷試験に対するGHの反応も減弱し、GH/IGF-1比も低下することが報告されている。高インスリン血症が血中のIGFBP-1を減らし、遊離IGF-1が増え、それによって下垂体からのGH分泌が抑制しているかもしれない。
PCOS患者の高プロラクチン血症の頻度は3-67%と研究によって様々である。963名のPCOS患者の大規模コホートでは12%とされ、PCOSによって本当に起きているのかははっきりしない。PCOS患者では潜在性甲状腺機能低下症や自己免疫性甲状腺疾患が多く、TSH値が上昇していることが多い。

低栄養・神経性食思不振症

ACTH・コルチゾールは上昇する。甲状腺はeuthyroid sick syndromeを呈する。
低栄養はIGF-1産生を障害し、GH値の高値を伴うことが多く、GH抵抗性が生じる。ブドウ糖負荷やTRH刺激に対してGHの奇異性上昇を示すことがある。
性腺系の変化は様々だが、長期の低栄養では低ゴナドトロピン性性腺機能低下症がみられる。

糖尿病

コントロール不良の糖尿病ではGHが上昇し、IGF-1が低下する。
コントロール不良もしくは肥満を伴う2型糖尿病男性患者ではテストステロン値は低下しているが、LH/FSHは不適切に正常か低値となっている。

CKD

HPA系は亢進しコルチゾール値は上がるが、日内変動は保たれる。
尿毒症患者ではeuthyroid sick syndromeがみられるが、、血液透析では甲状腺の異常は改善しない。GH基礎値は正常化もしくは上昇し、低血糖に対する反応が減弱し、L-DOPAやGHRHに対する反応が亢進し、TRHに対してGHが反応するなどGH制御の異常がみられる。
IGF-1は通常正常だが、活性が低下している可能性があり、IGFBPにも変化がみられる。GHの半減期延長によるGH値高値とIGF-1感受性の低下などGH抵抗性の状態がみられる。
プロラクチン値は(ドパミン活性の低下による)PRL分泌の増加・クリアランスの低下によって、初期のGHDの30%、透析患者の65%で高値を示す。性腺は中枢でも末梢でも障害され、尿毒症性性腺機能低下症が起きる。

肝疾患

肝硬変ではHPA系はほとんど変化しない。しかし、血中のCBGは低下しており、コルチゾールとデキサメタゾンの血中半減期は延びている。
慢性肝疾患患者では甲状腺機能異常はよくみられる。FT3は低下し、FT4は正常で、TSHは正常もしくは軽度高値を示すことが多い。
肝硬変患者ではGH値は増加し、ブドウ糖とTRH負荷に対して奇異性上昇を示す。
慢性肝疾患患者ではIGF-1は低下している。IGF-1低下に対してGH値は高値を示しており、IGFBP-3低値と合わせて後天性GH抵抗性の状態を示す。
肝硬変患者ではPRL値は時に軽度高値を示す。
男性では総テストステロンと遊離テストステロン低値、エストラジオールは正常か軽度高値となる。LHは正常化か軽度高値で、テストステロン低値に対する不十分なLHの代償を示唆する。しかしこれらは上昇したエストロゲンによるゴナドトロピンの抑制の可能性もある。

炎症性腸疾患

成長障害は炎症性腸疾患で最も多い内分泌障害の1つであり、IBDの小児患者の1/4にみられる。成長障害は慢性炎症、低栄養、思春期の遅延、性腺機能低下など複合的な要因による。
GH/IGF-1系は障害され、GH抵抗性を示す。HPA系も炎症の影響を受け、性腺系も低下する。

心臓病

重度の心室性不整脈患者は脳虚血や低酸素などによって下垂体に影響を及ぼしうる。蘇生を要するような心室性不整脈患者のシリーズでは、GHD27%、性腺機能低下9%、TSH分泌低下2%みられた。慢性心不全でもGHDが1/3にみられ、左室リモデリング、死亡率上昇と関連していた。

原発性甲状腺機能低下症

GH合成は減少し、基礎値も刺激試験に対する反応も低下する。重度の低下症ではTRH上昇によってプロラクチン値が上昇し、MRIで下垂体腫大(過形成)もみられるため、プロラクチノーマと誤診しないよう注意する
男性では総・遊離テストステロン値、SHBG全て低下する。しかしLH/FSHは正常であり、視床下部・下垂体障害が示唆される。

甲状腺機能亢進症

GH分泌は正常もしくは弱まる。LH/FSHは正常か軽度上昇する。PRL基礎値は正常だが、TRHやドパミンアゴニストに対する反応は低下する。小児では高身長になる可能性があり、SHBG高値によって若い男性では女性化乳房が起きることがある。

加齢による変化

下垂体のサイズは加齢に伴いわずかに小さくなっていくが、重量は維持される。下垂体の細胞は減少するが、線維化は増える。最も劇的な変化は閉経に伴うLH/FSHの上昇である(menopause)。似たような変化はより緩徐かつわずかだが高齢男性患者にもみられる(andropause)。総テストステロン値は低下するが、SHBG値は上昇し、遊離テストステロン値はより低下する。LH・FSHは正常であることが多いが、上昇しているケースもある。
HPA系は基本的に完全に保たれている。IGF-1とGHは加齢に低下し、刺激試験に対するGHの反応も減弱する。相対的GH欠乏は生理的な変化なので、補充は必要ない。
TSHはわずかに上昇し、TRHに対する反応は弱くなる。T3はやや低下するが、T4は保たれる。夜間のプロラクチン分泌は閉経後約40%減弱し、高齢男性ではそれより少ないが同様に減少する。エストロゲンによる分泌刺激、TRHによる刺激、ドパミンによる抑制の増強などによって起きている可能性がある。
AVP分泌は増える。60-80歳では尿濃縮力は20%落ち、希釈力は50%減少している。この濃縮力の低下は腎臓のAVP反応性が低下しているからかもしれない。AVPの日内変動は障害され、これが夜間尿の原因になっている可能性がある。口渇感も低下していて、若年者と比較して浸透圧の閾値が高くなっている。これらから高齢者では高Na血症と低Na血症のリスクが高い。

〈参考文献〉
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間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023 年版

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総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。