内分泌

下垂体TSH産生腫瘍の診断の手引き

下垂体TSH産生腫瘍の診断の手引き

I. 主症候
 1. 甲状腺中毒症状(動悸, 頻脈, 発汗増加, 体重減少)を認める(注1).
 2. びまん性甲状腺腫大を認める.
 3. 下垂体腫瘍(腺腫)による症状(頭痛・視野障害)を認める.

II. 検査所見
 1. 血中甲状腺ホルモン(遊離T4)が高値にもかかわらず血中TSHは正常値~軽度高値を示す(Syndrome of Inappropriate Secretion of TSH; SITSH)(注2).
 2. 画像診断で下垂体腫瘍を認める.
 3. 摘出した下垂体腫瘍組織の免疫組織学的検索によりTSHβないしは TSH染色性を認める.

III. 参考所見
 1. TRH試験により血中TSHは無~低反応を示す(頂値のTSHは前値の2倍以下となる)例が多い(注3).
 2. 他の下垂体ホルモン(GHとプロラクチン)の分泌過剰を伴い, それぞれの過剰ホルモンによる症候を示すことがある.
 3. 腫瘍圧排による他の下垂体ホルモンの分泌低下症候を呈することがある.
 4. 稀であるが異所性TSH産生腫瘍がある.
 5. 見かけ上のSITSHとして, 家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症, 抗T4抗体や抗T3抗体による甲状腺ホルモンの高値, 抗マウスIgG抗体などの異種抗体による甲状腺ホルモンやTSHの高値があり, 注意が必要である. また, ヨウ素を多く含有する抗不整脈薬のアミオダロンは, 内服によりSITSH を呈することがある.
 6. 術中所見は線維性でやや硬い腫瘍であることが多い.
 7. TSHβ・TSHの染色性が不明瞭な場合は, 転写因子PIT1およびGATA2 の染色が参考となる.

IV. 鑑別診断
 甲状腺ホルモン不応症(注4)

[診断基準]
 確実例: IのいずれかとIIのすべてを満たすもの.
 ほぼ確実例: IのいずれかとIIの1, 2を満たすもの.

(注1) 中毒症状はごく軽微なものから中等症が多い.

(注2) 測定キットによるTSH値の差異を補正するため, 2020年からTSHハーモナイゼーション(標準化)が行われている場合がある. このTSHハーモナイゼーションによる日本人成人(20~60歳)の血清TSH値の基準範囲は0.61~4.23mIU/l である.

(注3) 少数例では反応を認める.

(注4) 甲状腺ホルモン受容体βの遺伝子診断が役立つが, 甲状腺ホルモン不応症であっても既知の変異を認めない場合もある. また, 甲状腺ホルモン不応症に非機能性下垂体腫瘍を偶発的に合併することもあり, TSH産生腫瘍と甲状腺ホルモン不応症の鑑別は容易ではないことがある.

間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年

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guni
総合内科と内分泌代謝科で修行中。日々勉強したことを投稿しています。 皆様の参考になればと思います。役に立ったらシェアをお願いします。間違いがあればご指摘下さい。 臨床に応用する場合は自己責任でお願いします。